ヨーロピアンスタイルをベースに和のテイストを融合させた独自のスタイルを世界に広めてきた、デンマーク出身のフラワーアーティスト、ニコライ・バーグマン氏。「運が生まれる環境を作り出すことが大事」と言う彼が考案した「フラワーボックス」は、「何をしたらいいかわからない」という苦境の中から生み出されたものだった。
ブランド立ち上げから四半世紀を迎えた今、ニコライ・バーグマン氏のこれまで、インスピレーションの源、そしてこれからについて聞いてみた。

Profile

128回 Nicolai Bergmann (ニコライ・バーグマン)

フラワーアーティスト
1976年デンマーク生まれ。コペンハーゲン出身のフラワーアーティストとして東京を拠点に活動。ヨーロピアンスタイルをベースに、北欧のテイストと細部にまでこだわる日本らしい感性を融合させた独自のスタイルで知られる。1998年に初来日。2001年に「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン」を設立し初のショップを出店。2010年、南青山にカフェやスタジオを併設した旗艦店をオープン。
現在は国内7店舗のほか、デンマーク・コペンハーゲン、韓国・ソウルを含む全9店舗のフラワーブティック、箱根・強羅の「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」を展開する。

フラワーデザインにとどまらず、ファッションやデザインの分野でも世界有数の企業との共同プロジェクトを数多く手がけ、フラワーアートの個展もデンマークやアジア各地で精力的に開催。2025年にはコペンハーゲンのチボリ公園でフラワーボックス25周年記念の展示会を開催するなど、国際的な活躍を続ける。
2026年9月、自身の作品と言葉で綴った新作写真集『KUMIAWASE 組み合わせ』(ニコライ バーグマン株式会社)を刊行。

著書に『いい我慢 ~日本で見つけた夢を叶える努力の言葉~』(あさ出版)『ニコライ・ バーグマン 花と幸せを運ぶ日常』(かんき出版)

Nicolai Bergmann | ニコライ・バーグマン 公式ウェブサイト
オリジナルフラワーボックス25周年 特設サイト
ニコライ・バーグマン公式 インスタグラム

花が教えてくれること
──創造の源は「好き」という気持ち

花は、私にとって何よりのインスピレーションの源です。だから今でも週1回は花市場に足を運びます。しばらく行かないと、クリエイティビティが湧いてこないのです。

花を見て季節を感じる──「もうそろそろチューリップが終わりそうかな。次は少し夏らしい花に切り替えようかな」と考える時間がとても好きです。その季節にしかない花を、少し早めに取り入れたり、名残惜しむように時期をずらして使ったり。フラワーアートは「賞味期限のあるアート」だという方もいらっしゃいます。毎週変わるからこそ、空間にリズムが生まれます。
この感覚を大切にしているからこそ、以前は月水金と週3回、朝3〜4時に起きて大田市場に通っていました。さすがに今はその体力はありませんが(笑)

これまで花と向き合ってきて、一つ確かなことがあります。それは、作り手が「好き」「楽しい」という気持ちでいることこそが、何よりも大切だということです。花あっての「ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン」というブランド。花の部分がルーティンになった瞬間、ここに心が宿らなくなってしまう。だから、ブランドが大きくなっても、お花の美しさと、それを手掛けるデザイナーたちの「花が好き」という気持ちをいかに保ち続けるか?それが課題であり続けています。

「困った」から生まれたフラワーボックス

今はフラワーギフトの定番ともなっている「フラワーボックス」ですが、それが生まれたのは、「困った。どうしたらいいかわからない」という瞬間からでした。

当時働いていたフラワーショップでひとつのお店を任されたばかりの頃、このお店と自分の存在意義を見せたいと思っていました。そんな時、「600個のフラワーギフト」のプレゼンの話がありました。
パーティーの手土産としてフラワーギフトを提案してほしい。ただ、会場が狭く、置き場所が限られているという条件でした。そのためには、積み重ねられる形にするしかない。
バスケットや器を使ってフラワーアレンジメントを作り、東急ハンズやLOFTなどを回って箱を買い集め、それに入れる。しかし、予算的にバスケットや器と箱の両方を使うのは難しい。そこで、浅草橋の問屋街まで足を延ばし、箱を見つけ、自分で組み立て、そこに直接花をアレンジしてみました。積み重ねる必要があること、そして予算の制約。そんな困難な状況が、新しいアイデアを引き出してくれました。

プレゼンの結果は、あっけないものでした。「かわいいですね。きれいですね。でも他が見つかりましたので。ありがとうございました」そう言われておしまい。残念ながら、仕事にはつながりませんでした。でも、その時のアイデアが、後に「フラワーボックス」として自分のブランドを象徴する存在になったのです。当時は、想像すらしませんでした。

うまくいっている時ほど、頭の働きがにぶりがちです。しかし、本当に追い詰められている時、頭はフル回転してくれます。特に海外の人は「coincidence」とか「偶然」という言葉を使いたがらない人が多いです。自分の努力や実力を否定することになると感じるのでしょう。でも、偶然も運も、自分が一生懸命動いている時にこそ生まれるもの。家のソファで寝転がっているだけでは、運は生まれません。そういう意味で、自分がクリエイトする環境は、とても大事だと思うのです。

「いい我慢」
──ネガティブを力に変える言葉

私は「いい我慢」という言葉をよく使います。「やる気」とか「頑張る」という言葉があるなかで、「我慢」という言葉はあまりポジティブな意味で使われていないなと感じていました。我慢するのは辛いこと。「もっと我慢しましょう」と言えば、どこか暗い雰囲気があった。
しかし、何かをやり遂げるためには、我慢もまた必要です。そうしなければ達成できないこともある。自分の夢や目標に繋がる「我慢」は、経験すべき「いい我慢」です。人生にはいろいろな辛いこともあるけれど、夢に向かって前向きにやろうよ、頑張ろうよ——我慢が持つネガティブなイメージを変えたいという意味合いで使っているのが「いい我慢」なのです。

祖父のリンゴ園が教えてくれたこと

この「いい我慢」という感覚は、子どもの頃から身近にあったかもしれません。祖父がリンゴ園を営んでいたのですが、「やりたいことはある。でもお金はない。じゃあ、今の自分に何ができるか、まずそれを考えよう」といつも言っていました。父は6000万円の借金を抱えるという苦しい状況に陥りましたが、誰かに頼るのではなく、まず自分に何ができるかを問い続けていたように思います。
「我慢」を花で表現するとしたら、私は徹底的にディテールにこだわりますね。細かい竹を組んで器を作り、濃い紫やブラックに近いチョコレートコスモスなど、少し暗めの色の花で表現する。でもその中に、ワンポイントで決め色を入れる。我慢の中にある一筋の明るい光です。

外国に比べて、日本はポジティブな言葉が少ないと感じることがあります。
以前、花市場でいつも「あー、売れない」「スタッフが働かない」とぼやいている方がいたんですね。ある時つい、「そんなことを毎日言っていたら、絶対売れないよ」と思わず言ってしまいました。そしたら後日、「あの時はありがとうございました」ってお礼を言われたんです。どうやら、私の一言で自分がネガティブなことばかり口にしていることに気づいたそうです。それ以来、ネガティブな言葉を言わないようにしたら、スタッフも変わったし売り上げも上がったというのです。
よく本などでも、「“I’m bad”と言い続けると、本当にそうなってしまう。“I’m good”を言い続けるとgoodになる」と言いますよね。もちろん、そんなに簡単ではないとは思うけれど、やっぱり身体はネガティブな言葉を聞きたくないのではないでしょうか。

私の哲学
──大自然と、和と洋のあいだで

ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ
ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ


私が作品を創造する際のインスピレーションの源はいくつかあります。先にお話しした花市場もその一つですが、なかでも大きいのは「自然」です。自然のシンプルさに触れると、すごくエネルギーがわいてくるのです。2022年に箱根に人と自然がつながる場所として「ニコライ バーグマン 箱根 ガーデンズ」をオープンしましたが、そこに行き、景色を眺めるだけで疲れが癒されます。 あとは、2人の憧れのフラワーアーティストにはインスパイアされます。一人はデンマークのターゲ・アンダーセン。独自の世界観がすばらしいです。もう一人はベルギーのダニエル・オスト。2人ともスタイルは異なりますが、尊敬しています。ただ、他のフラワーアーティストから作品の具体的な影響を受けることはありません。 それよりも、隈 研吾さんや安藤 忠雄さんの建築物や空間、それからインテリア全般にもインスピレーションをもらうことが多いです。


2026年9月に、フラワーボックス誕生25周年を記念した写真集『KUMIAWASE 組み合わせ』(ニコライ バーグマン株式会社)を出版しました。自分の言葉とともに、これまでに自分が手がけた作品を載せています。「和と洋」を融合させた本で、初めて海外のグラフィックデザイナーと組んで制作しています。表紙には漢字が取り入れられています。日本人と作っていたらそうはならなかったと思うのですが、海外の目線からすると漢字はとてもかっこよく映るようです。
今、あらためて思うのは、パソコンもSNSもない時代に、日本の深いところにまで直接足を運び、見て回った経験は、本当によかったということです。デジタル時代とも言われる現代ですが、リアルに体験したことこそが、今の自分の土台になっていると感じています。この写真集には、そうした時代に私が体感したものが詰まっています。

日本とデンマーク
──2つの場所が育てたもの

自分の中では、歳を重ねても、これからもずっと日本にいるつもりです。「デンマークと日本、どちらか一つを選んで」と言われたら、デンマークを選ぶかもしれないけれど。でも、デンマークには季節ごとに1か月ほど帰ると、ホッとするんですよね。そのバランスが大事なのです。だから、最初の7年くらいはデンマークに帰れない時期が続いて本当に辛かった。それも今では「いい我慢」だったと思っています。
花は正直です。作り手の「好き」が、箱を開けた瞬間に、そのまま伝わる。その一瞬を生み出すために、これからも自分が動き続けられる環境をつくっていきたいと思っています。

ー2026年9月、自身の作品と言葉で綴った新作写真集を刊行ー

写真集『KUMIAWASE 組み合わせ』は、フラワーアーティスト ニコライ・バーグマンの25年におよぶ創作の軌跡と本展示会のために撮り下ろされた新作フラワーアート作品を収録した一冊です。 これまでに撮り溜めた秘蔵のフラワーアート作品、そして季節の移ろいとともに変化する花々の最も美しい瞬間を捉えた写真を厳選して収めています。

ニコライ・バーグマン 写真集『KUMIAWASE 組み合わせ』

書 名:『KUMIAWASE 組み合わせ』
著者名:ニコライ・バーグマン
発売日:2026年9月1日
出版社:ニコライ バーグマン株式会社
判 型:340 × 265 mm
ページ数:214ページ
定 価:15,400円(税込)

オンラインショップでご購入できます

杉山さんとの対談は、お互いに経営者であるという点、またこれまでにいろんな困難を乗り越えてきたという点で、共通点もあり、とても楽しい時間でした。杉山さんとは初対面でしたが、杉山さんからはとてもポジティブなエネルギーを感じました。私も自分がやってみたいことに積極的にチャレンジし、常にポジティブでいることを意識しているので、いい刺激をいただきました。杉山さんなら、『私の哲学』のインタビュー1000回の目標を達成されると思います。

フラワーアーティスト ニコライ・バーグマン


ニコライ・バーグマンさんのフラワーボックスを初めて知ったのは、今から約15年前のことです。まだ現在のフラッグシップストアが改装される前、友人と訪れた空間でその存在に触れました。フラワーボックスをプレゼントした際、箱を開けた瞬間の“WOW”という表情──あの一瞬で空気が変わる。その体験こそが価値の本質だと感じました。

弊社の取締役はニコライさんと30年来のお付き合いがあり、出会った当初から毎週自宅に花を届けていただいていました。これまでに飾ってきた花は1000種類以上にのぼります。花の命は約1週間ですが、来客のエネルギーによってはすぐに萎れてしまうこともある。花は空間や人の状態を映す存在なのだと思います。

ニコライさんの創作には魂が入っている。だからこそ空間の質を変え、人の心を動かす。これは単なるフラワーデザインではなく、環境そのものを創る仕事です。
最後に、自分に似合うフラワーボックスをニコライさんに選んでいただきました。自分では選ばない色や組み合わせでも、不思議としっくりくる。自分では見えていない“自分”を引き出す──それもまた、ニコライ・ バーグマンという表現者の力なのだと思います。

『私の哲学』編集長 杉山 大輔


2026年6月
ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン フラッグシップ ストアにて
取材・編集:杉山 大輔
プロジェクトマネジャー:安藤 千穂
文:柴田 恵理(『私の哲学』副編集長)
写真:ごとーひろな
制作:『私の哲学®』編集部

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