インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第54回 滝 富夫 氏

ファッション・アパレル業界において盤石な地位を築いた滝富夫氏。 成功の秘訣は人との関わり方にあると語ります。人を育てるために必要なこと、そして氏自らが実践してきたコミュニケーション術についてお話を伺いました。

Profile

54回 滝 富夫(たき とみお)

タキヒヨー株式会社名誉顧問 | 学校法人滝学園 理事長 | MIKIMOTO(America)取締役
1935年愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、アメリカ・ハーバード大学ビジネススクール高等経営科 修了。1957年伊藤忠商事入社、1960年父親たっての願いでタキヒヨーに入社。入社10ヶ月で、父の死去により26歳の若さで社長就任。1973年ニューヨークにTAKIHYO INC. 設立、ANNE KLEIN社を買収。1978年タキヒヨー株式会社会長就任と同時に居住地をアメリカに移す。1985年Donna Karan社を立ち上げ、米国を代表する世界的ファッションブランドに育てる。
1970年6月ロサンゼルス市名誉市民、2011年4月フィラデルフィア大学名誉博士号、2011年4月Leader of Innovation Medal受章。現在、アメリカにおいてニュースクール大学・パーソンズ スクール オブ デザイン校理事、ハワイ州ホノルルカントリークラブオーナー。
日本国内においては、株式会社コンチネンタルフーズ取締役、NPO法人高峰譲吉博士研究会副理事長、公益財団法人日本伝承染織振興会顧問を務める。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2017年5月)のものです。

「できる」ではなく「やる」

「やりたいことは、即行動に移す」。これは私の流儀の一つです。私は若い頃からじっとしているのが苦手で、何にでも躊躇せず挑戦し、どこへでも躊躇せず飛び込んでいきました。やりたいことをし、行きたい場所へ行き、会いたい人に会う。26歳でタキヒヨーの社長に就任したとき、200年以上も続いた和装業から一転、洋装へと大きな事業転換を図ったのも、アメリカに渡りダナ・キャランを発掘し育てあげたのも、すべてはやりたいと思ったことを行動に移しただけのことです。結果、日本のアパレル業界のみならずアメリカのファッション業界にも大きな足跡を残すことができました。もちろん、成功するためには戦略、舵取りのための地図作りは必要ですが、ああでもない、こうでもない、何から始めようかと頭で考えているだけでは前には進めません。とにかく足を使って動きながら調べ、考える。「できる」かどうかではなく、まず「やる」ことが大切なんです。昔から「言うは易し、行うは難し」と言いますが、世の中、良いことを言う人はたくさんいるけれど、行動が伴わない人が多すぎる。だから、そういう若者たちに「行うは難し」をどう克服させていくか、それがこれからの私の仕事だと思っています。

そうして、やると決めて行動したなら、答えは白か黒のどちらかです。ダメならダメでもいいんです。新たな方法や方向を模索するきっかけになるわけですから。そうすれば次に進めます。どっちつかずというのが一番いけない。

「人の考えはわからない」のが原則

上に立つ人間がよく口にする言葉があります。「なんで俺の考えていることがわからんのだ」。特に戦中戦後生まれの我々の世代には、多くを語らずに背中を見せて「俺の考えを理解しろ」という風潮があります。しかし人間、みな顔形が違うように、考え方も違って当たり前。言葉にせずに「俺のことをわかれ」というのは土台無理な話なのです。トラブルが起きると、つい「あの人は私のことがわかってない」と相手に非を求めてしまいがちですが、私からすればそれはおこがましい。自分が言葉にして伝えていないか、伝えたつもりになっているかのどちらかだと思います。なかには「彼は、私が一言うと十わかる」と言う人がいますが、それはちょっとあり得ないレベルの話。もしそんなことがあるとしたら、「彼」はわかったつもりになっているだけだし、「私」は騙されているんです。

ビジネスにおいて、それはとても危険なことです。私はよくこういう話をします。部下には4種類のタイプがいる。一つ目は上からの命令をわかったうえで実行するタイプ、二つ目は命令はわかっているけれどやらないタイプ、三つ目は命令がわからないからやらないタイプ、そして四つ目は命令がわからないけれどやってしまうタイプ。一番困るのは、四つ目のタイプです。あながち動いているから騙されてしまうけれど、結局、砂上の楼閣を積み上げているだけで、そのうちにガシャーッと崩れて大損害をもたらす。命令されたのに何もしないというのは、ビジネスマンにあるまじき行為かもしれませんが、わからないからという理由であれば、わからせればやるし、成功する可能性が残っているのです。

5段階の伝え方

私は物事を始めるとき、相手は自分のことをわかっていないという前提でコミュニケーションをとるようにしています。だから、しつこいぐらいに言葉で説明します。どうしてあなたにこういうことをやってほしいのかという目的に始まり、それを実現するためには何が・誰が必要で、いつ・どのような手順で進めていくのか、絞り込んで話を進めていきます。

そして、私は自分の考えをわかってもらうために五の段階を踏むようにしています。1段階目では前述したように言葉できちんと説明します。2段階目は自分でやってみせ、3段階目は部下と一緒にやってみます。4段階目で部下ひとりにやらせてみて大丈夫そうなら、あとは結果を見守ります。そこまでやって、やっと人に何かを伝えた、教えたということになる。説明もせずに「わかってるだろう」というのは論外ですが、口で説明するだけでも足りません。自分が行動し、一緒にやることで、はじめて自分の考えを相手に伝えられるのだと私は思っています。人を教育するには根気が必要だし、何よりもコミュニケーションが欠かせません。

コミュニケーションの土台は信頼と愛

それでも、残念ながら人の気持ちは100%理解できないのが現実です。だから常にすり合わせが必要なのです。それもパソコンやスマホなどを使った機械的なやり取りではなく、目と目を見合って、手を握って、温かい気持ちを直接相手に伝えるコミュニケーションです。

私は現在、「滝学園」の理事長を務め、青少年の育成にも力を注いでいます。中高一貫の学校なので、生徒たちは12歳から18歳までいわゆる人格構成期の一番大事な時期を我が校で過ごすことになります。親兄弟よりも長い時間を一緒に過ごす先生と彼らが、そして生徒同士が、どのようにコミュニケーションをとっていくべきなのか、それをどう教え導いていくのか、非常に難しいミッションです。現代の子どもたちは目の前にいても、その目は常にスマホの画面に釘付けで、ひっきりなしに指で画面をいじっている。直接話すよりもメールやLINEのほうが話が通じやすいなんて、大問題ですよね。ハードが非常に進歩した現代、それらを有効に使うことも必要ですが、コミュニケーションの土台になるのは、結局のところ、直接的な人間の温かさを感じることで得られる、信頼や愛なんじゃないかなと思います。

杉山大輔さんは若くてエネルギッシュな人と感じました。
いいコンセプトを持ち、私の話をきちんと聞いてくれて、楽しいインタビューでした。
いろいろな人の「哲学」を聞くといういいことをしているので、続けてもらいたいですね。
それによっていろいろな人がいい影響を受けると思いますので、これからの活躍を期待しています。

タキヒヨー株式会社名誉顧問 滝 富夫


衝撃的なインタビューでした。滝さんの一言一言や体験に裏付けられたエピソードが重く、自分はまだまだひよっこだと実感しました。滝さんがニューヨークに行ったのが僕が生まれた1979年、また祖父と同じ名前の富夫さんはとっても親近感がありました。

滝さんが描かれた本「Manage ダナ・キャランを創った男、滝富夫」(伊藤操著)のサインのメッセージに「大チャン 大キナ夢ヲ!!!」と書いていただきました。もっと大きな夢を描こうと決心しました。

「私の哲学」を始めた当初(2007年)は、100名を目標にしたのですが、滝さんに、「私の哲学」100回を目標と言わず後世に残すために、まずは1,000名を目標にしなさい。またアメリカで100名、ヨーロッパで100名、中国で100名など、君はどこでも行けるでしょ?どこの国の人でもみんな「人間」だよ。これは意義のあることだから期待すると仰られ、おだてられるとビルもよじ登る男杉山大輔なので、その場でまずは1,000名を目標に世界の活躍する人たちと出会うために指切りげんまんで約束。ライフワークが明確に見えました。

指切りげんまん嘘ついたら針1,000本飲〜ますですね(笑)。

そこで計算をしてみると、毎年50名実施すれば20年で1,000名の方とお目にかかれます。今年38歳なので、60歳の時に1,000名の方々とお会いして帝国ホテルでパーティーをやったら人生最高だよなと思いリストを作っています。

今年の9月は「私の哲学」in New Yorkを実施し、活躍するニューヨーカー達をインタビューすることが決まりました。このように人生経験豊富な滝富夫さんに、君は小さいねーと教えていただくことでどれだけ僕がこれから背伸びできるか(笑)僕の武器は「行動する勇気」です。磨きをかけて世界で遊んできます。

『私の哲学』編集長 杉山大輔

2017年5月 ホテルオークラ東京  ライター:塚本佳子 撮影:Sebastian Taguchi