インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第13回 鈴木 エドワード 氏

独立して35年。現在もなお精力的に作品を生み出し続ける建築家・鈴木エドワード氏。原子論や哲学、科学にも造詣が深く、トライアスロンなどのスポーツもタフにこなす。65歳とは思えないパワフルな行動力の源と建築家としての使命について伺いました。

Profile

13回 鈴木 エドワード(すずき えどわーど)

建築家 | 鈴木エドワード建築設計事務所 代表
1947年埼玉県生まれ。ノートルダム大学、ハーバード大学大学院アーバンデザイン建築学部卒業後、1974年バックミンスター・フラー・アンド・サダオ、イサム・ノグチスタジオ、1975〜1976年丹下健三・都市建築設計事務所を経て、1977年鈴木エドワード建築設計事務所設立。さいたま新都心駅や渋谷警察署宇田川派出所、下鴨の家など、公共施設から個人邸、集合住宅まで幅広く手がけ、グッドデザイン賞、エコビルド賞など数々の賞を受賞している。科学、原子構造、哲学、形而上学などにも造詣が深い。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2012年7月)のものです。

鈴木エドワードさんにおかれましては、令和元年9月15日、享年71歳にて永眠されました。
訃報を聞いた時は、信じられなく、大変驚き、一緒にバスケットボールをやったり、ウェブサイトを作らせていただいたりと楽しい思い出ばかりが蘇ってきました。取材させていただいたエドワードさんの哲学をこのように残せて本当によかったです。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
「私の哲学」編集長 杉山 大輔

29歳の決断

今の事務所を立ち上げたのは1976年、僕が29歳のときです。ハーバード大学大学院を卒業後、13ヶ月間は丹下健三都市建築設計事務所で働いていましたが、丹下先生の仕事は世界各国のビッグプロジェクトのプレゼンが多く、僕の仕事はデザイン、その下準備や図面、パース、模型作成などが主で、実設計の勉強があまりできませんでした。そこで、他の事務所に行くか、独立して自分で勉強していくか考えた末に、独立することを決意したんです。「まだ29歳なんだからぶつかってみよう。それでダメだったらまたどこかに勤めればいい」と考えていました。

最初は大変でしたよ。友人と二人で小さな事務所を借りて、一つの電話を共有するところからのスタートです。資金も30万円くらいしかありませんでした。当時はエドワード鈴木と名乗っていたので、電話口で毎回のように「江戸川の鈴木さん?」なんて間違えられたりして(笑)。これは問題だと思い、最終的に本名(鈴木エドワード)に戻したりもしました。

初めて手がけた仕事は、母校であるセント・メリーズ・インターナショナル・スクールの同級生の山中湖の別荘です。それがメディアに取り上げられ、その後も運良く口コミで仕事が次から次へと広がっていき、気がついたらいつの間にか35年が経っていたという感じです(1977年に株式会社設立)。その間に作品のテーマも変わっていきました。20年以上前から続けているテーマ「インターフェース」は、内と外の中間領域を意味する言葉ですが、縁側、庇、坪庭などといった日本の伝統的な暮らしの知恵を、新しい素材やデザインに置き換え、現代の建築にうまく取り入れる手法です。機械エネルギーのない時代から長い年月を重ねて生き残ってきた成功例ですから、これからもベーシックなテーマとして続けていくつもりです。

建築で小さな感動を提供したい

僕は今65歳ですが、この年になって死ぬことを考えるようになりました。最後に息を引き取るときに自分の人生を振り返ってみて、幸せだったと思えるだろうか、と。やはり人間は幸せになるために生きているんだと思います。ではその幸せとは一体何かと考えると、ノーベル賞を受賞したとかオリンピックで金メダルを獲ったとか、大きな偉業を達成したかどうかではなくて、生きているうちにどれだけたくさん小さな感動を積み重ねたかだと思うんです。僕は建築家ですから、その小さな感動を僕がつくった建築でみんなに味わってもらいたい。住宅であろうと、駅舎であろうと、その施設を利用する人たちが毎回一瞬でもいいから小さな感動を味わえるような建築を、提案・提供し続けていきたいと思っています。

特に住宅は、人の生活の拠点となる場所ですから、ディテールがとても大事です。その環境が持つポテンシャルを最大限に生かすことによって、そこに住む人にとっての「世界で最も心地いい場所」になる可能性を秘めています。それはたとえお金持ちが建てた立派な一軒家であっても、若者がわずかなお金で借りている小さなマンションであっても同じです。ポテンシャルを生かせるかどうかで世界はまるで違ったものになってしまうのです。けれど残念ながら、あまりにも多くの人たちがそのことに気づいていないのが現状です。個人の経済レベルに関わらず、人を取り巻く環境のポテンシャルを最大限に生かし、建築物を通して幸せを提供していくこと。これが私の使命だと考えています。

浴槽から広がる小宇宙

僕にとって、一番落ち着いて物事を考えることができ、いろいろなアイデアを生み出せる場所が浴室です。だから、住居の設計をするときも、浴室にはこだわります。

例えば、浴槽の上端まで窓を下げて、外にはちょっとした坪庭を演出する。すると、湯船に浸かりながらてんとう虫がちょこちょこ歩いているのを発見したり、雨の滴がぽとぽと落ちてくる様子を眺めることができる。わくわくしたり、楽しい気分になったり、浴槽から小さな感動の世界が広がっていくわけです。

ところがあるとき、浴槽の上端まで窓を下げるという設計だったにも関わらず、施行会社が間違えて、浴槽の上端から20cmくらいコンクリートの壁を作ってしまったことがありました。僕はあまり怒らない性格なので、普段はちょっとしたミスなら許してしまうことが多いんですが、さすがにそのときばかりは許しませんでした。もちろんコンクリートの斫り(石や岩などを壊したり、削ったりすること)作業が大変だということもよくわかっています。けれど、それをまあいいかと許してしまえば、見られるはずだった景色が見られなくなってしまい、決して小さな感動を味わうことはできません。お客様に小さな感動を味わってもらうためにディテールを大事にする。これは絶対に妥協できないポイントです。

建築家のなかには自分の作品作りに走る人もたくさんいます。でもお客様の満足を第一に考えずに、自分のための作品を作ろうとする建築家は間違っていると思います。たとえ自分がやりたかったことではなかったとしてもお客様の満足を最優先に考えるべきです。お客様を満足させることが大前提にあって、その上で自分にとってもいい作品ができたと思えるのが理想的な形です。 ありがたいことに、事務所設立以来、「頼んでよかった」「おかげでみんなが幸せです」と言ってくださるお客様が非常に多く、それは私たちが何よりお客様の満足をベースに考えているからだと思います。

トライアスロンとの出会い

38歳のとき、人生の折り返し地点であらためて体をブラッシュアップしておこうと、トライアスロンを始めました。なぜトライアスロンかというと、当時一緒に仕事をしていたインテリアデザイナーの内田繁さんにハワイのトライアスロン・レースの様子を撮影した写真を見せてもらったからです。なにしろ僕は、スポーツ大好き、ハワイ大好き、海大好き、空大好き、お祭り大好き人間ですから「これはやるしかない!」と。でも調べれば調べるほど過酷なスポーツだと知って、一度は諦めていたんです。その後、あるパーティーで知人が僕の体を触って「長距離向いているんじゃない? 僕がトレーナーになるからトライアスロンやってみない?」なんておだてるので調子に乗って、「お酒はやめない、トレーニングも半年しかやらない」という条件をつけてチャレンジすることにしたんです。

結果的には自信もついて、チャレンジしてよかったですね。初めて参加したハワイのアイアンマンレースで、自転車で坂道を下っている途中、周りに誰もいなくて一人きりになった瞬間があったんです。頭上には青い空が広がり、右手には美しい海がキラキラ輝いていて、思わず「神様ありがとう!」と感謝するほど幸せを感じました。

トライアスロンのほかにも週3回はプール、週2回は筋トレ、週1回はバスケットボールを欠かさずにやっています。やはり精神は肉体によって支えられていて、現役でずっと建築デザインの仕事を続けていくためにもベースとなる体を管理しておかないといけない。自分の若さの秘訣だと思って、これからも続けていきたいと思います。家族からは「心臓麻痺を起こさないでね」と注意されていますが、好きなことをやりながら死ねたらそれこそ幸せだなと思います。

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バスケットボールの練習でエドワードさんとお会いしました。最初、年齢を召しているのでバスケットボールはできるのかな?と思っていましたが、怪物でした(笑)その時自分自身無酸素運動が大半だったので、エドワードさんの方が体力的にも勝っていました。一緒に練習している仲間の大半もI want to be like Ed when I grow oldと冗談まじりで言っています。僕はシニアの方がここまで体力的に動けるのを目の当たりにして、運動を継続的に続けることで、こうなれるのだというイメージを持つ事ができました。その後、僕もエドワードさんに刺激され、毎週スイミング、ランニング、筋トレを60歳の自分をイメージして取り組むことにしました。今年の東京マラソンに参加したのもエドワードさんに影響されたからです。

ジェントルマンで誰に対しても優しく、一つ一つのことを一生懸命に取り組む姿は参考にしたいです。「小さな感動の積み重ね」は納得です。自分も小さな感動、小さな喜びを大きな喜びに変えていきたいと思います。エドワードさんの、気持ち的にはまだ30歳ですというのがとても印象的でした。MindもBodyもフレッシュなエドワードさん、僕も65歳の時にはI want to be like Edです。

『私の哲学』編集長 杉山大輔

2012年7月 鈴木エドワード建築設計事務所にて  ライター:秋山真由美   撮影:鮎澤大輝