インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第49回 千本 倖生 氏

第二電電、イー・アクセス、イー・モバイルと常に時代の先を読み、会社を起こしてきた千本倖生氏。長年の知見を若手経営者に惜しみなく注ぐ氏に、ベンチャー経営の極意をお話しいただきました。

Profile

49回 千本 倖生(せんもと さちお)

株式会社レノバ 代表取締役会長
1942年奈良県生まれ。京都大学工学部電子工学科卒業。フロリダ大学修士課程・博士課程修了。工学博士。大学卒業後、日本電信電話公社(現在のNTT)に入社。42歳のとき、NTTの通信独占状態に異議を唱えて退社。1984年、当時京セラの社長だった稲盛和夫氏と共同で第二電電株式会社(現在のKDDI)を創業する。さらに、1999年にイー・アクセスを、2005年にイー・モバイルを創業。2014年3月イー・アクセス株式会社取締役名誉会長職を退任し、同年4月株式会社レノバ社外取締役に就任。2015年8月より現職。1992年カーネギーメロン大学客員教授、1996年慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授、1997年スタンフォード大学客員フェロー、2001年カリフォルニア大学バークレー校客員教授、2006年カンタベリー大学招聘教授を歴任する。
主な著書に『「やりがい」の変革─自分を高める本物の人間力とは』(青春出版社刊)、『千本倖夫のMBA式会社のつくり方─新ビジネス成功のノウハウ』(PHP研究所刊)、『挑戦する経営─千本倖夫の起業哲学』(経済界刊)ほか多数。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2016年8月)のものです。

風穴を開ける

時代を引っ張るGoogleやテスラモーターズといったシリコンバレーでトップクラスの会社は、どこも再生可能エネルギーに注目し、発電設備の導入や再生可能エネルギー向けの電池開発などに積極的に投資しています。日本もしっかり勉強して、そうした世界のトレンドを知る必要があるでしょう。デンマークには洋上風力発電の世界最大手、DONGエナジーがあります。人口570万人ほどの国が、世界トップの再生可能エネルギー会社を創り出しているのです。人口約1億2千万人の日本でも、ようやく市場が立ち上がり、遅ればせながらアメリカ、ヨーロッパに追いつこうとしています。しかし、インドや中国と比べると遅れているのが現状です。

日本がこの分野で遅れているのは、規制政策がされていないのと、既存の電力会社が強い力を持っているからです。通信分野は自由化され、私は第二電電(DDI)、今のKDDIを創りましたが、NTTよりも電力会社は保守的です。日本で今、大規模な再生可能エネルギーに取り組んでいる企業の多くは商社と金融会社で、本来やるべき事業会社が取り組んでいません。そこに風穴を開けるのが、株式会社レノバです。極めて優秀な元マッキンゼーの若手社員が立ち上げた、大手金融会社や電力会社の傘下にない完全に独立した会社であり、この分野でのリーディングポジションを保っています。

時代の流れを見る目

エリートは、物事が見えすぎてしまうことがあります。賢いだけでなく、ある種の無頼のようなものを持ち合わせていないと、小さな集団のままで終わってしまいます。レノバは、私が来て情熱の無頼というようなことを吹き込み、1年間でものすごく変わりました。元は社長に付いていた私の秘書が、「千本さん、会社ってこんなに変わるものなのですね」と言ったほどです。あらゆる局面で私の思想を注入して真っ赤に染め上げ、レノバを情熱のある企業集団にしようと思っています。無頼と言いましたが、一方で真面目な面も必要です。真面目にきちんと人の3倍は準備すること。そして、どこかで飛躍することです。飛躍するかしないかで、人生は大きく変わります。私もNTTに残っていたら、今ごろは釣り以外にすることがない年金生活を送っていたでしょう。

1983年、民営化される前のNTTを退社したときは、逆風で真っ暗闇の暴風雨の中を、一人小さな船で漕ぎ出すようなものでした。33万人もの社員がいる巨大な独占企業に対し、反旗を翻して通信会社を創ることにどれほどの反対があったか。命の危険を感じ、プラットホームの線路側は歩かないようにしていたほどです。今ではLINEなら無料で通話できますが、当時の電話料金は、東京─大阪間が3分間400円。30分かけたら4千円と高額でした。DDIを創ろうと思ったのは、電話事業に革命を起こそう、風穴を開けようと思ったからです。電話の次は、インターネットが21世紀の巨大な嵐になると思い、イー・アクセスを創りました。電話の革命。インターネットの革命。そして、エネルギーの革命。世界の大きな流れが見えない人は、小さなベンチャーは創れても、大きなベンチャーは創れません。やはり、時代ごとの大きな流れを見る目を持つことです。

ファーストクラスのマネジメントチーム

組織において大事なのは、トップのマネジメントチームをどう作るかです。CEO一人に出来ることは限られます。DDIを創るとき、私には稲盛和夫さんがいました。イー・アクセスのときにはエリック・ガンさんが。エリックは、財務諸表からすべてを読み取ることができる抜群のCFOで、私が持っていない素質をたくさん持っていました。天才的なベンチャー経営者は、往々にして自分が全能で、すべて一人でできると思ってしまいます。しかし、私の事業構想力や時代を読む力とそれ以外の素質が上手く組み合わさったマネジメントチームのように、経営にはファーストクラスのチームが必要なのです。

この数年、日本は変わってきたと感じています。例えば、フィンテックやマネーフォワードといった面白いベンチャーが出てきています。しかも、とてもしっかりしている。フィンテックはおそらく、金融革命を引き起こすでしょう。また、財務省を飛び出したエリートが起こした、ウェルスナビという会社があります。昔は財務省に骨を埋め、その後はどこか中小企業公庫の総裁などで終わるというのが普通でした。それが、30歳ぐらいで役所を飛び出し自分で絵を描くという、見事な準備をする若者が出てきたことを頼もしく思います。

経験と知力を若い経営者たちに

これまでファウンダー、CEOを経験し、70歳になってチェアマン・オブ・ザ・ボードになりました。ここから見える景色はこれまでとまったく違います。私は常に、若い経営者たちが120%能力を発揮できるように、いかに支援するかを考えています。昔は良く怒っていましたが、今はほとんど怒りません。みんなをどのようにモチベートし、高めていくかということに自分の視点を変えています。

私はゼロからはじめ、ずっと小さな船で暴風雨の中を進み、それを巨艦にしてきました。いろいろな災害、艱難辛苦に遭いました。そういうプロセスを通ってきているからこそできるアドバイスがあり、今レノバが海図上でどの段階を走っているのか見えるのです。若い経営者たちは死に物狂いで走っていて、目の前しか見えていません。彼らが足りない経験、知力。その部分を充填し、彼らのレベルを上げていくのが私の役割だと思っています。

実に楽しいインタビューだった。起業当初、先輩から教えを請うためにスタートした「私の哲学」も回を重ねて49回目となった。これまでの出演者の教えを自分なりに工夫し、「行動」に繋げ、成長の起爆剤になっていると言えるだろう。

人間には3通りしかいない。1.世の中で何が起きているか分からない。理解していない人。(現状が把握できていない人)2.賢くて、何が変化しているのを見て理解して、分析できる人。(現状が把握できているけれど行動できない人)3.2を踏まえた上で、それを見てmake it happenを起こす1%の人。(現状が把握できて、行動できる人)その上が、それを継続的に続けられる人。

行動力、コミュニケーション能力が日本トップクラスであるビジネスプロデューサーの杉山大輔氏、これからの活動が益々楽しみである。

株式会社レノバ 代表取締役会長 千本 倖生


NTTの通信独占状態に異議を唱えて退社した、当時42歳の千本さんは本当にすごい決断をされました。理論、アイデア、机上の空論ではなく、リアルな実務でビジネスを経験された彼の強い一言一言がビシビシ伝わってきました。待っているのではなく自分から向かって行く前向きな姿勢は、「行動する勇気」のキーポイント。行動を起こすのに、年齢は関係ありません。千本さんの自らチャレンジする環境に身を置き、そこから這い上がる気力と体力、根気を見習いたいと思います。

『私の哲学』編集長 杉山大輔

2016年8月 株式会社レノバにて  編集:楠田尚美  撮影:Sebastian Taguchi