辛口ファッション・チェックで人気のファッションデザイナー、ドン小西氏。長年かけて積み上げたものを時代の変化によって失い、再出発を余儀なくされた氏が考える、人生の歩み方についてお話しいただきました。
Profile
第50回 ドン 小西(どん こにし)
ファッションデザイナー | 名古屋学芸大学客員教授
1950年三重県生まれ。文化服装学院卒業。アパレルメーカー勤務を経て1980年に独立し、「株式会社フィッチェ・ウォーモ」を設立。1991年、毎日ファッション大賞受賞。1997年、ニューヨークコレクションに参加。1998年、ファッションエディターズクラブ(FEC)デザイナー賞受賞。2008年、三重県観光大使就任。これまでに税関職員、東武鉄道、NTTドコモ関西など数多くのユニフォームデザインを手掛ける。各種メディアでの辛口ファッション・チェックで人気を博す。
著書に『部長!ワイシャツからランニングがすけてます』(朝日新書刊)、『逆境が男の「器」を磨く』(講談社+α新書刊)、『ドン小西のファッション哲学講義ノート』(モナド新書刊)ほか。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2016年9月)のものです。
ファッションは、内面のビジュアル化
デザイナーの仕事一本だったときは、朝から晩まで毎日4時間の睡眠と食事以外は全部洋服作りに注いでいた。そのときは分からなかったけれど、人の内面はファッションに現れる。ファッションだけでなく、自宅のインテリアや持ち物にも現れる。一番分かりやすいのが、体を覆っているファッション。政治家が深々と頭を下げていても、偉そうに見えるダブルのジャケットを着ていたら、謝罪はただのポーズだってこと。沖縄との摩擦を緩和しようと、親睦を深めるために“かりゆしウェア”を着て会談に臨んでいても、そのかりゆしにたたみジワがついているなんてデリカシーがないよね。直前にビニールから出して着た、メディア向けのポーズだってことが分かってしまう。
人が思っていることは目に見えないし、数値化することもできないけれど、ファッションにはその人の内面が現れる。僕はファッションを見れば人となりが分かるし、90%当たる。それは40数年間、ほとんどの時間をファッションに注いできたから。若い人にファッション・チェックができるはずがない。長く生きてきた、それだけの経験値があるからできることなんだ。
電話一本でフェラーリを買う
僕がロマンティック路線のデザインを打ち出した年、日本はポケットもボタンも隠してしまうような、シンプルでミニマムなデザインの時代に入った。刺繍や図案、生地のテクスチャーにもこだわった僕のデザインとは真逆のものが主流になり、前年の5分の1も売れなくなってしまった。そして、それまでに積み上げたものが、ものの見事に崩壊した。日本のマーケットは、流行が極端に偏り過ぎているよね。もっといろいろなチャンネルがあっていいのにと思う。
どん底を経験して、今は二度目の人生を生きているような喜びを味わっている。今が一番充実しているかな。お金はないけどね(笑)。それでいいんだよ。この歳になると、免許を返している友人が多くて、僕もあと何年車を運転できるかわからないけれど、最後にどんな車に乗ろうか、そのためにもう少し稼ごうなんて考えている。それが楽しい。年収が何億円もあったときは何でも買えた。イタリアから取り寄せた、100万円くらいするフェラーリの大きな模型を3日半徹夜して作ったことがある。完成したら実物が欲しくなって、8,400万円もの車を電話で注文した。あまりにも仕事が忙しかったから、ストレス解消でもあったんだよね。でも、若い頃は、60万円で買った中古車を、1時間も前からそわそわしながら待ち、家の先の角に車がちらりと見えたときに感動したこと。そういう気持ちは忘れちゃいけないと思っている。
仕事は人生のすべてではない
他人が作り上げた環境に身を置いて、その中で悩み、あくせくしながら人生を送るのは格好悪いと思う。大事なのは、自分自身が何をやりたいか、また、それをやろうとする意思。学校を卒業した後そのまま就職して、置かれた環境に染まり、一つのレールの上を歩いている。本当の意味での友人はいないし、「これが自分」と言えるようなものが何もない。お金を稼ぐこと、仕事がすべてになってしまっているから、夜中の12時でも白いワイシャツにネクタイをして酒を飲んでいる。そういう人は好きじゃない。友人と楽しく飲んでいるのに、ずっと仕事の話をしているサラリーマンが近くにいると、「悪いけど、離れてくれ」と声をかける。その時間帯は、自分らしく過ごす時間。例えば、ガソリンスタンドで働いている人がユニフォームを着たまま飲みに行ったり、遊びに行ったりしたらおかしいでしょう?自分の時間を充実させるために、仕事着であるスーツを着て頑張っているんだから、自由な時間は自分らしい服装でいる方がいい。
居心地が良い環境から抜け出せない人、一皮むいてみると何にも残らない人、肩書きを取ってしまうと何にもできない人がいっぱいいる。日本には、「人と違っていてもいい」という考え方がなくて、みんな同じ価値観を共有している。だから、“お金持ちになる方法”なんていうHow to本が売れるんだよね。ビジネスセンスがある人もそうでない人も、お金持ちもそうでない人もいる。世の中ってそういうものだと思う。辛い思いをすることもあるけれど、自分の意思で行動して、喜びを感じたり発見したりするのが人生なんだ。僕はずっと、台本のない人生を送っている。計画通りに進む人生なんて、面白くないと思うよ。
変わる勇気
僕は誰の力も借りず、人生を賭けて日本一のデザイナーを目指して頑張ってきた。土地も建物もお金もなくなったけれど、それには変えられない自分の芯や感性は、我流でもしっかりしているという思いがある。これは決してお金では買えないもの。先日テレビ番組で、アメリカ大統領選挙初のテレビ討論会に出演した、ドナルド・トランプ氏のファッション・チェックをした。彼は人も環境も、家庭もお金で買っているんだろうと思う。あれほどのお金持ちでも買えないのは、デリカシーとセンス。どちらも周囲の環境や、自分の経験によって身についていくものだよね。お金では買えないってそういうこと。
何か物事が“変わる”ときには、勇気と大きなエネルギーが必要だ。歴史を振り返ってみると、時代が大きく変化するときは、恐ろしいほどの惨事が起きている。人が自主的に変わるのは難しい。でも、時には変わることや捨てることが大切なんだ。僕は、時代の変化によって人生を大きく変えられたけれど、ファッションを通していろいろな人と出会い、良いも悪いもあらゆることに巻き込まれて学んだこと、命をかけて感じたことがいっぱいある。それが今、ファッション・チェックやファッション討論に役立っている。大学や専門学校の教壇に立ち、教育にも関わっている。最近は企業からの講演依頼も多い。器用に世渡りしている人、自由時間にも仕事着を着ているような人に、自分の芯を持つことの大切さを教えてあげたい。そしていつか、理屈でも何でもない、人間の感性であるファッションをテーマにした雑誌を創りたいと思っている。
初めて彼に出会った時は驚いたね〜。“誰のことか?”って??杉山大輔君だよ!!
確か、深夜の白金のワインバーだったと思う。友人から紹介を受けた途端だよ、自分のことを自信満々に語り出すんだよ!聞いてもいないのに、自分の生い立ちを永遠とさあ〜。しかもだよ、「僕は・・・。僕が・・・。僕の・・・」。
話の内容はあんまり覚えていないが、何だか自分のことばかりを話すんだよ。それもお喋りで有名なドン小西を目の前にして延々と30分もだよ。デリカシーの無さには驚いた。しまいには僕が、「うるせ〜よ。お前!!」と怒鳴りつけちゃったもんな。でも、ほとんどが草食男子と言われる時代にだよ。珍しいよね、こんなにクソ生意気で自信過剰な30代は。
しかし聞き手側となった大輔君、インタビューとなるとよほど僕に関心があったのか、質問は的確で、その内容は鋭く奥深かったんだよな。この僕を手のひらで転がすかのように、僕の過去を上手にひっぱり出してくるんだよな〜。
そして、彼に言ったことは、「学習も知識も哲学も大事だが、毎日ドキドキ、ワクワクしながら何かを発見したり発明したりすることが楽しいんだ。つまり“GO WITH THE FLOW”に生きて行け!」。インタビューを終えた頃には意気投合して、サウナから上がったようなさわやかな気持ちになった。すべてをさらけ出したおかげで、デトックス効果が出たのか、実に爽快な気分だった。
おそるべし、自信家36歳!!杉山大輔!!また会って、酒でも飲みたいね!!
ファッションデザイナー ドン小西
「私の哲学」は、僕のわがまま企画です。僕自身が本当にお会いしたい方に直談判し、その方に関する情報をくまなく集め、著書を読んだ上で考え抜いた質問を用意し、直球勝負してきました。締め切りに追われて焦って登場者を探したり、中途半端な記事になったりしないよう、更新は不定期にしました。これまでの50回には愛情と情熱を注ぎ込み、インタビューで学んだことはすぐに仕事や生活に生かし、アウトプットを行ってきました。現在は毎回小冊子も作成していて、ネット記事が主流の世の中ですが、情報発信の手法として紙媒体の良さも改めて感じています。
今回、50回という記念の回に登場していただいたのは、ファッションデザイナーのドン小西さんです。ドン小西さんの愛情溢れるコメント、最高です(笑)。“GO WITH THE FLOW”は、これからの生き方に必要な考え方ですね。インタビューの後、「君のスーツはまあまあだけど、コクとセクシーさがないね」と言われ、オリジナルスーツをデザインしていただけることになりました。素晴らしい出会いが、面白い展開へと広がっています。
2016年9月 小西良幸デザインオフィス にて 編集:楠田尚美 撮影:Sebastian Taguchi