妨害に屈せず、損得を考えず、常に全力で目の前の仕事に取り組んできた、林成治氏。「恩と義理が大事だ」と言う氏の、価値観の源を辿りました。
Profile
第80回 林 成治(はやし せいじ)
カーコンビニ倶楽部株式会社 代表取締役社長
1958年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業。大学卒業後、プロミス株式会社(現SMBCコンシューマーファイナンス株式会社)に入社。2005年から三井住友銀行に出向。カードローン事業を立ち上げ、3年間で融資残高2,000億円という実績を残す。2008年、プロミスに戻り、最年少の執行役員に就任。2011年1月、カーコンビニ倶楽部の全株式を取得し、代表取締役社長に就任。2015年、タイの商社と合弁会社カーコンタイランドを設立。2017年、個人カーリース事業『もろコミ』を立ち上げる。あらゆる業界に豊富な人脈を持ち、異業種提携で新規事業を立ち上げるなど、その経営手腕は各方面から注目を浴びている。
諦めずに続ける
2011年1月に、カーコンビニ倶楽部の全株式を取得しました。今考えると、これは30年も40年も前から決まっていた、それまでの人生は、そこに行き着くためだけにあったんだと思います。 始まりは、高校3年生のときの出来事でしょう。夏休み前のことです。たばこやけんかとかいろいろあって停学処分を受けました。その時、この後の人生も悪さをしながら歩んでいくのは嫌だ。大学は入っておかないと格好悪いと思い、渋谷にあるという理由だけで青山学院大学を選び、大学受験を決意しました。家にいると悪い仲間が来て誘われてしまうので、夏休み期間中は毎朝8時に学校へ行って夜7時まで勉強し、帰宅後夕飯を食べたら12時過ぎまでまた勉強。夏休み後は、学校から帰ると10時間くらい机に向かい、毎日死ぬほど勉強しました。成功している人の多くは、“諦めないことが大事”だと言います。諦めずにずっと続けられるメンタルの強さがあるかどうかが、成功する人とそうでない人の違いだと思います。 大学には合格しましたが、俺は入ることを目的に勉強していて、何のために大学に入るのかという目的を持っていなかった。大学の4年間は、今の10年、20年にも匹敵する大事な時期だったと社会人になってから痛感し、ものすごく後悔しました。だからこそ仕事にはいつも、目的は何か、手段は何かと自問自答しながら取り組んでいます。就職先は、当時、批判の対象だった消費者金融プロミスを選びました。親や同級生には、「何でそんな会社に入るんだ」と言われたけれど、プロミスに入社していなければ、カーコンビニ倶楽部の全株式を取得することはなかったんですよ。この就職という大きな選択も、今につながっています。向上心とは
大学を卒業して半年くらい経った頃、結婚しようと思った女性に、「あなたには向上心がない」と言われたことがあります。ハンマーで殴られたようなショックを受け、1ヶ月間何も手に付かなかった。それから、向上心とは何なのか、何をしたら向上心を持てるのか半年間ほど悩み、聴講生として大学に授業を受けに行ったり、知り合いの弁護士に話を聞きに行ったりしました。そんなある日、夢の中に神様が出てきて、「向上心を持つための方法を教えてやろう。今から言う3つを頭の中に入れて生きていきなさい」と言ったんです。 「1つ目は、何事も疑問に感じること。自分が知らない、分からないということを認め、疑問に感じたことは必ず調べる癖をつけろ。 2つ目は、ライバル心を持つこと。自分よりも優秀なライバルを設定して競争することで、自分に負けない気持ちが分かるようになる。 3つ目は、素直になること。人の話を聞くことで人間は成長していく。でも、素直に受け入れる気持ちがなかったら人の話は聞けない。素直な気持ちを持っていろいろな話を聞き、影響を受けながら成長していくんだ」。 その夢を見てから、人生ががらりと変わりました。給料をもらっている以上、誠実に仕事をしなくてはいけないと思うようになり、同僚や部下への感謝の気持ちが生まれ、“恩と義理が大事”という自分の軸ができました。成績を上げてはめられてしまう
“夢のお告げ”によって、他の社員よりも早く出世することができました。傍から見れば順調に出世したように見えますが、元来、長い物に巻かれるのが嫌いな性格なので、様々な摩擦の中で左遷と昇進を繰り返しました。45歳のとき、三井住友銀行へ3年間の出向を命じられます。業務内容は、カードローン業務立ち上げの責任者として、3年間で2,000億円の融資残高を達成させるというものでした。この出向も、後の全株式取得に大きく関わります。 プロミスに戻ると最年少の首都圏支社担当の執行役員になり、マイナスだった業績を3ヶ月でプラスにしました。たぶん妬まれたんでしょう。検査部と他の支社が結託して、支店長30数名、社員約60名が不正をしてプラスに転換しているとでっち上げられました。「俺が役員を辞任したら社員は処分しないか」と聞くと、「処分しない」と言われたので俺は辞任し、プロミスの子会社だったカーコンビニ倶楽部へ異動に。部下を守らずに保身を図っていたら、この異動はありません。 カーコンビニ倶楽部の赤字は約100億円でした。赤字になればなるほど、経営陣や周囲の懐が潤う仕組みを作っていたんです。そのお金の流れを全部切っていったら、10ヶ月で突然解任。その後あちこちの子会社に次々と回され、愛想を尽かして会社を辞めました。時期を同じくして、三井住友銀行がプロミスを完全子会社化することになり、金融以外の事業であるカーコンビニ倶楽部を競争入札で売却すると発表しました。 手を挙げたのは、俺に協力してくれたたくさんの社員が、全員クビになってしまうような状況だったのと、加盟店の方に、「あなたが来てからまともな会社になった。戻ってきてほしい」と支持されていたからです。過去の行いが窮地を救う
日本企業の名だたるところが手を挙げ、個人は俺一人だけ。財務状況は全部分かっていたので、3億円から5億円で買えるだろうと目論んでいました。5億円用意できるという起業家の知人にお金のことは任せて、交渉の第一優先権を取るために奮闘しました。最後は大手商社との一騎打ち。ここで、以前出向していたことが生きます。決め手は、プロミスの親会社である三井住友銀行からの絶大な信頼でした。俺がつくった部署が、その時点で毎年200億円の利益を上げているということもあり、売却相手は俺に決まりました。 交渉の第一優先権を取ったのが2010年12月10日、お金の払込日は翌年1月14日。5億円用意すると言っていた知人は、まさか大手商社に勝てると思っていなかったようで、連絡が取れなくなってしまいました。払込日の金曜日に、「月曜日にはお金が用意できるから、3日間だけ待ってくれ」とプロミスに謝りに行きました。どうやって資金を調達するか悩んでいて、ふと思い出したんです。カーコンビニ倶楽部にいたとき、高価で加盟店の経営を圧迫していた見積もりシステムを、より安く、高性能なものに入れ替えようとしていたんですが、重要案件を勝手に進めたと言われ、それが解任理由の一つにもなりました。結局そのシステムは導入されず、システム会社の会長に解任の挨拶に行った際、「何か困ったことがあったら、必ず訪ねてきてくれ」と言われたんです。日曜日に会長の家へ行き、「2年前の約束なんですが」と切り出した途端、「ようやく来てくれた」と、翌月曜日にすぐ臨時役員会を開いて無担保で3億円出資してくれました。生き様は仕事の様
三井住友銀行でもカーコンビニ倶楽部でも、会社や社員のために死にものぐるいで仕事しました。故に解任されてしまいましたが、解任されていなければ全株式を買うことはできなかった。“その時、その時を一生懸命やる”という自分の生き様を貫いたからできたこと。常に仕事と誠実に向き合っていなかったら、3億円出資してもらうことはなかった。すべての出来事が、その後の人生に関わっています。 苦しいときこそ、それまでの生き方が大きく関わります。男の生き様は、突き詰めると“仕事の様”。仕事の様を良くすることによって、生き様が良くなります。サラリーマン生活の後半、ここで自分の生き様を貫くと大損するだろうとか、会社での立場を失うだろうということが何回もありましたが、それでも構わないと思いました。だからこそ、今がある。一度でも自分の生き様を否定するようなことをしていたら、このポジションにはいないでしょう。全部つながっているんです。カーコンビニ倶楽部株式会社 代表取締役社長 林 成治
林成治さんのインタビューは映画のようなドラマチックな展開で、インタビュー途中で最高潮に達し、熱い握手を交わしたほどです。「向上心のない男」と言われ、覚醒したエピソードはとても共感できました。“向上心”や“ハングリー精神”は、行動するための原動力になります。 彼の数々の“運の強さ”は、正しいことを曲げない姿勢から来ていました。勉強も仕事も、本気で誠実にすること。これは人が見ていても、見ていなくても同じです。 改めて、真剣なサシトークこそ最大の学びの場だと感じたインタビューでした。
2018年4月 カーコンビニ倶楽部株式会社 ライター:楠田尚美 撮影:朋-tomo-