憧れて渡ったアメリカで事業を興して成功し、アメリカンドリームを体現した吉田潤喜氏。氏がアメリカから見る、今の日本とは。第42回は、私の哲学編集長10年越しの願いが実現したインタビューです。
Profile
第42回 吉田 潤喜(よしだ じゅんき)
ヨシダグループ会長兼CEO | ヨシダソース創業者
1949年京都府生まれ。
1969年に単身渡米。波乱万丈のアメリカ生活をサバイブした末に、自家製秘伝のタレをベースにしたヨシダソース(正式名称:ヨシダグルメのたれ®)を生産販売し、アメリカンドリームの体現者となる。米国の中小企業局、Small Business Administrationが50周年記念のGolden Anniversaryに選んだ全米24社に、FedExやインテル、AOL、ヒューレットパッカードなどと並んで“殿堂入り”を果たす。2005年、Newsweek誌(日本版)“世界で最も尊敬される日本人100”に選ばれる。2010年、オレゴン州と日本の友好に貢献したとし“外務大臣賞”を受賞。現在、18社を抱えるヨシダグループの会長職務のほか、地元料理番組のレギュラー出演、各地での講演、日本国内での様々な番組出演、メディア取材などをこなし、世界中を飛び回る日々を送っている。
著書に『人生も商売も、出る杭うたれてなんぼやで。』(幻冬舎刊)、『無一文から億万長者となりアメリカンドリームをかなえたヨシダソース創業者ビジネス7つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)がある。
公式ホームページ
※肩書などは、インタビュー実施当時(2016年5月)のものです。
金儲けではなく、人儲け
僕はこれまで、“人儲け”をしてきたと思っています。お金を儲けることだけ考えていたら、事業は成功しなかったでしょう。人生の儲けは、人儲けです。人をいかに儲けるかを考えると、お金は自然とついてきます。アメリカに“フレッド・マイヤー”という、生活に関するすべてのものが揃うワンストップ・ショッピング型のスーパーがあります。会社を設立してから2年目の頃、参加者200名くらいのチャリティゴルフで、誰かが気を遣ってフレッド・マイヤーの当時の社長と同じ組にしてくれました。スタート直後から2人でビールを飲み、6ホール目ですでに酔っぱらうほど楽しい時間を過ごし、ラウンド中もその後のバーベキューパーティーでも、商売の話を一切しませんでした。それから2週間後のこと、「上からの命令で160店舗すべてにソースを入れることになりました」とバイヤーから電話があり、心底驚きました。これが人儲けです。フレッド・マイヤーの社長だからとゴルフ場でソースを売り込んでいたら、全店舗納入の話はなかったと思います。
日本でも同じようなことがありました。当時社長だった、大手スーパーの創業者から連絡をもらって会いに行き、世間話や冗談ばかり言って1時間半ほど過ごした帰り際、「吉田ソースが入っているところありますか」と聞かれ、「今は長崎屋に入っています」と答えると、ひと言、「うちの店舗全部にすぐに入れます」と言われました。呼ばれて会いに行き、うちのソースは美味しいから買ってくれなどと商売の話をしていたら社長は逃げていたと思います。こんな例はたくさんあります。人儲けはお金につながる。お金を儲けようと、こそこそ計算なんかして動いたらあきまへんねん。
敗者にチャンスがあるアメリカ
日本で講演すると、僕のライフストーリーに涙してくれる人も、自分自身は夢が持てずに迷っています。夢を持てないのは、やはり国が悪いと思います。アメリカが日本と大きく違うのは、“敗者復活戦”があることです。私の会社18社はS-Corporationという企業形態になっており、18社すべての税金が私個人に集約され課税されます。以前、スノーボードの事業で16億円の赤字を出したことがあるのですが、赤字額の50%が過去7年間に払っていた税金から払い戻されるという税法により、8億円が戻ってきました。このようにアメリカは、大損しても復活できる国です。しかし、日本は失敗した人を救う制度が整備されていません。高校受験も大学受験も年に1回の一発勝負。それなのにゆとり教育なんて矛盾しています。
アメリカで成功している会社のほとんどは、一度は何かしら問題を起こしています。Apple社のスティーブ・ジョブズにしても、あれだけ立派な人なのに自分の会社を追い出されました。アメリカでは、完全に潰れてもまた復活して大成功を収めることができる土壌があります。以前、日本のある人から「会社が何回も倒産しかけたことは話さない方がいい」と言われたことがあります。理由は、「信用をなくすから」。僕が何回も潰れかけても這い上がって来られたのは、人儲けがあったからです。これがアメリカではビューティフルストーリーになっても、日本では受け入れられない。日本は失敗を許せないんですね。失敗が信用を失くすことにつながるというのは、悲しいことだと思います。
競争や戦うことも人生には必要
アメリカから日本を見ていて思うのは、政治家の質が悪いということです。オバマ大統領は、歴代大統領の中でもものすごい数の暗殺の計画があると言われていて、今でも暗殺される可能性があるのを覚悟で命をかけてやっています。ここがアメリカと日本の違うところ。明治維新の頃は、日本の政治家も命をかけて国を良くしようとしていた。不満を持つ者に襲われて、殺されてしまうこともありました。今の政治家は命をかけていない。だからおかしくなっている。グローバル化と言いながら、グローバルを知らない人が政治家をしています。本当にショックだったのは、1年間留学するための休学でも、日本の大学では月謝を取られます。アメリカの大学は、休学している間の月謝は取らずに籍を残しておいてくれます。グローバル化だ、若者は海外に出なさいと言いながら月謝を取る。しかも、それに対する疑問が学生から出ない。消費税率アップの問題にしても、政治に対する疑問や批判が出ず、学生運動が起こることもありません。
歴史を振り返ると、学生運動が起こらない国は潰れてしまっています。良いにしろ、悪いにしろ、革命が起きない国はだめです。国の改革を目指す革命は、若者が主体となって命をかけるもの。やはり、ゆとり教育は間違いだったのではないでしょうか。空手の生徒たちとCNNニュースを見ていたとき、小学校の運動会では手を繋いで一緒にゴールすることを知って、みんな笑っていました。「順位をつけてはいけないなんて冗談なのか」。「僕らはみんな1位になるために毎日練習しているのに、日本のこの教育は何なのか」と。運動会では順位をつけなくても社会に出たら競争はあって、誰もが部長や社長になれるわけではありません。なのに、競争して順位をつけないのはおかしなことだと思いませんか。
生きる原動力となるパッションを持ってほしい
その昔、韓国では、韓国人女性とアメリカ兵との間に生まれた子どもたちに対する差別がありました。中学生のとき、その子どもたちの孤児院に関する番組を観て、涙が止まりませんでした。それ以来ずっと、いつか絶対に孤児院を作ったるという思いがあります。オレゴン州ポートランドにある自宅は、土地が2万5千坪で母屋だけでも300坪あります。将来的にはこれを全部寄付して、孤児院か、がんの子どもたちのためのリトリートハウスにしようと考えています。僕の子どもたちも全員賛成しています。ビジネスは地域、あるいは人のためにやると、必ず何かしらの形で自分のところに戻ってきます。日本では売名行為と言われてしまうためか、経営者が公に寄付をすることはあまりないですね。母が4年間お世話になった日本の病院に寄付させてほしいと言ったら、断られました。日本の場合、病院は株式会社ですが、アメリカではNPOなので寄付がなければ成り立ちません。寄付をすること、集めることが当たり前の国です。
長女が生まれてすぐに病気になったとき、治療費は払えるようになってからでもいいと言ってもらいました。その時、いつか必ず恩返しをすると心に誓い、このことが僕の人生の原動力になっています。会社が倒産しかけても、その度に「こんちきしょう、今に見てろ」と思いました。生きていくには、そういう根性も大事です。人生の原動力は、死に物狂いで自分の夢を追いかけるパッションです。今の日本の若者にはパッションが感じられない。疑問や不満を言わずに戦おうとしないこの状況は、何とかしないとあかんな。
杉山君のパワーに驚きました。彼の発想力や行動力は、僕の若いころに似ているね。人懐っこくて、キラキラした目で一生懸命に話してくるから、僕も話しすぎてしまったかな。子供のような無邪気さがありながら、ビジネスについてはしっかりとした考えを持って行動しているように感じました。今の日本の若者には欠けているエネルギッシュな行動力で、これからの日本を引っ張っていってほしいと思います。“keep on dreaming” 応援していますよ。金儲けより人儲け!良い出会いをありがとう。
ヨシダグループ会長兼CEO 吉田 潤喜
念願叶い、やっとお目にかかることができました。
2006年にテレビ番組の「カンブリア宮殿」を拝見し、「COSTCOでソースを売っている社長すげーな」と思ってからずっと気になっている方でした。番組内でおっしゃっていた、「ごちゃごちゃ言うより、まずやってみる」という考え方は、起業したての僕に心強いセリフでした。
ウェブサイトにアップされる来日日程を調べ、ラブレターを送りインタビューが実現。「自分から行動しないと何も起きない」と今回も実感しました。インタビューを通じて、日本で味方を作ってからアメリカで勝負したいという、大学生からの目標がクリアになりました。トレードマークの帽子もしばし拝借(笑)。僕のエネルギーキャパは倍にパワーアップし、ビジネスにおける新たなヒントもいただきました。
本当に素敵な出会いでした。
2016年5月 帝国ホテル東京にて 編集:楠田尚美 撮影:鮎澤大輝