CMプロデューサーとしての活躍を経て、44歳の若さで社長に就任した藤原次彦氏。氏の考える社長の役割やスキル、ご自身の社長としてのこれからについて語っていただきました。
Profile
第15回 藤原 次彦(ふじわら つぎひこ)
株式会社AOI Pro. 代表取締役社長
日本大学芸術学部映画学科卒業後、株式会社葵プロモーションに入社。CMプロデューサーとして数々の話題作を手がける。2004年同社取締役、2010年歴代最年少の44歳で代表取締役社長に就任。2012年7月1日、社名を「株式会社葵プロモーション」から「株式会社AOI Pro.」に変更し、柔軟な発想と確固たる信念を持った舵取りで会社を牽引している。
藤原次彦社長におかれましては、平成27年2月22日、享年49歳で永眠されました。
私は藤原社長のビジネスマインドに感銘を受け、常にその姿勢を理想としています。まだまだお聞きしたいお話もたくさんありました。早すぎるお別れは本当に無念です。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
「私の哲学」編集長 杉山 大輔
自信の裏付けとなるのは、自分で積み上げた実績だけ
僕が社長になったとき、「何であいつが?」と思った社員はほとんどいなかったと思います。早すぎると思ったかもしれませんが(笑)。それくらい、周囲が納得できる実績を積み上げてきました。プロデューサーとして27歳から社長賞や会長賞を何度も受賞し、ポジションも順調に上がっていきました。38歳くらいで、「このままいったらいつか社長に」という確信が自分の中で芽生えていました。取締役になったときは、会社の勇気を有り難く、また誇りにも思いました。同時に、いつか絶対自分がトップにならなくてはいけないときが来る。そのことをきちんと意識していかなくてはと思ったんです。誰よりも早く38歳で経営陣に上げてもらった人間がずっと同じポジションに留まったままでは、本人の頑張り不足でしかありません。
では社内で今、「俺は社長になってAOI Pro.を引っぱっていく」と思っている人間がいるかどうか。そこがあまり見えてこない。仕事に対するモチベーションは周りからの評価ではなく、自分の実績を基に自分自身が作っていくしかないのですが、今後10年の間には意識の高い人材が出てくるでしょう。その原石を早く見つけて磨くのも社長の仕事です。自分がいなくなった後に会社に活気がなくなってしまったら困りますから、永続的に会社を存続させるためにも次の世代を育てることは急務です。
社員に、「この人が社長でいてほしい」と思われている限り、いくら若くても年を取っていても関係なく、社長でいるべきだと思います。逆に、「もうあなたじゃない」と社員が思い始めたら潮時ですよね(笑)。社長という最重要ポストは年齢とは無関係ですから。「まだ藤原が社長やってくれないと困る」とみんなが思っていたら僕は続けます。でも優れた人材が現れて、その人の方が良いと言われたら潔く社長職を外れます(笑)。
AOI Pro.×他産業にチャレンジ
現在、会社のスケール感をもっと大きくするために、1+1が2を上回るような新しい事業にチャレンジしています。AOI Pro.グループのメインである映像制作事業と、例えば農業を掛け合わせたらどうなるかなど、異質なもの同士を掛け合わせたときに生まれる領域に、新しいビジネスチャンスを見出したいと思っています。新しいことは簡単ではないし、なかなか上手くいきません。この3年の間にもいろいろと始めていますが、苦労が多いです。でも今はそれで良いと思っています。ビジネスは粘るところと引き際のタイミングがポイントで、その判断の動物的勘を経営者が持っているかどうかです。損を出すけれど、ここで止めて赤字事業から手を引くか。今は赤字だけれど2、3年後まで粘って4、5年後に大きな花が咲くかどうかなんて誰にもわからない。この見極めはトップがすることで、そこが社長の醍醐味です。役員のうち2、3人が「リスクがあるのでやめましょう」というくらいのときにGOを出さないとビジネスは発展しません。全員が「それいいですね」と言うものは、すでに新鮮味を失っています。みんなが驚くことをやるから新鮮で、新しい爆発を生むのです。
社長に必要なのは、この可能性に賭けるチャレンジ精神と、失敗したときに「ごめん。間違った」と素直に謝り、素早く軌道修正すること。それができる人間に人はついてくると思います。日本には辞めることで責任を取ろうとする風潮がありますが、失敗を取り返してから辞めるのがトップの責任の取り方だと僕は思います。
藤原イズムをAOISMに
社会人になってから、「何をすればお客様とスムーズにコミュニケーションが図れるか」「どうすれば他社と差別化を図れるか」を常に考え、そのためにずっと守ってやってきたことがたくさんあります。例えば、返事をすぐに返す”スピードコミュニケーション”。メールの返信や折り返しの電話が遅い人は、自らビジネスチャンスを逃してしまっています。あるいは、どんな要求にもできない、無理だと言わずに、代替案で応える”史上最強のイエスマン”などです。こうした僕のビジネススタイルが、いつからか周囲の人たちに藤原イズムと言われるようになりました。これを会社のイズムにしたいと思い、特に重要な7つを社長就任時の所信表明で社員に伝えました。
最近もう一つ加えようと思っているのが、コミュニケーションにおける最高の武器である”空気を変えられるか”です。話が進まなくなってしまった重い会議の空気を、一瞬で良い方向にガラリと変えられるかどうか。笑い話やジョークを言うことではありません。それはかえって空気を悪くしてしまう場合もあります。何が問題で議論が進まなくなっているのかを誰よりも早く的確に理解して、再び議論が活発化するような言葉をその場に投げかけることです。僕の得意技のひとつがそれだったかもしれません。現場にいた頃、作業が上手く進んでいない編集室に僕が入っていくと、5分でみんなの笑い声が聞こえる編集室に変わったとよく言われました。
このスキルに欠かせないのは、冷静に状況を把握して分析する能力と、アイデアの引き出しをたくさん持っていることです。努力だけで身につけるのは難しく、もしかしたら天性の感覚も必要かもしれませんが。引き出しをたくさん作るには、日々あらゆる物事に対して好奇心旺盛になることです。だから、若い世代とも食事に行ったり、積極的に時代の最先端に触れたりするようにしています。手に職が一つもない僕は、最高のコミュニケーターでありたいと思っています。「空気を変えられる男」。それはビジネスマンとして最高の称号です。
「私の哲学」を開始してから、今回の藤原氏で15回目になりました。インタビューをお願いする際、その時点で私の中にある問題意識や、率直に聞きたいことを質問し、経営者としてのヒントを探しています。インタビューを通して登場していただいた方の”哲学”をインプットし、それを自分なりに解釈して次のアクションに生かしています。
藤原さんは有言実行の男です。現場を良く知り、「最強のイエスマン」「スピードコミュニケーション」など藤原イズムを確立されました。現場・現物主義の私もこの2つの考え方は、仕事をする上で最も重要だと感じています。どんなにスキルがあっても、パッションやお客様の立場になって考える姿勢がなければ選ばれないのは明白です。選ばれ続ける企業、選ばれ続ける男、その場の空気を変えられる男になりたいと、藤原さんとお会いして思いを強くしました。
私自身33歳となり、これから杉山イズム、インターリテラシーイズムを確立していきたいと思っています。いつもお世話になっている皆様、本当にありがとうございます。インターリテラシーの今後の爆発的成長にどうぞご期待ください。
2012年11月 株式会社AOI Pro. にて 編集:楠田尚美 撮影:鮎澤大輝