最近、日本でも利用者が増えてきたFacebook。このソーシャルメディアをビジネスにおいて活用する、事例研究についてまとめた著書がベストセラーとなっている熊坂仁美氏に、日本におけるFacebookの広がり方についてお聞きしました。
Profile
第9回 熊坂 仁美(くまさか ひとみ)
ソーシャルメディアコンサルタント | 株式会社ソーシャルメディア研究所代表取締役
慶應義塾大学文学部卒業。Facebookをはじめとする、ソーシャルメディアのビジネスへの活用を実践研究している。活気あるファンページ運営のノウハウをもとに、外資系企業等のファンページ構築運営のコンサルティングを行うかたわら、ソーシャルメディアのビジネス活用について企業研修や講演を全国で行っている。独自理論「好感アクセス収益モデル」と海外事例の研究をまとめた『Facebookをビジネスに使う本』(ダイヤモンド社)は、Facebook、Twitter、YouTubeでの口コミにより、発売前からアマゾン部門1位を獲得。40,000部のベストセラーとなっている。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2011年5月)のものです。
『Facebookをビジネスに使う本』
2010年11月に『Facebookをビジネスに使う本』を出版しました。その年の6月終わりには原稿を書き終わっていましたが、出版するにはまだ時期が早いと延期になりました。それから、10月に無印良品がファンページを開始するなど、秋頃から徐々にコミュニケーションの得意な企業がFacebookに入り始めます。12月には、CEOであるマーク・ザッカーバーグ氏がタイム誌の”Person of the year”に選ばれたこともあり、結果的には出版のタイミングはちょうど良かったと思います。実際、予定通り夏に出版されていたら売れていなかったでしょう。
私がFacebookに注目したのは、2009年9月くらいから使い始めたTwitterがきっかけです。つぶやくことに意味を見出せず、抵抗がありました。実際にやり始めると、元々書くことは好きなので、こまめに投稿しながらも何の役に立つのか理解できませんでした。飲食店ではそれにより売り上げが上がるという話はありましたが、法人ビジネスの場合、あまり意味はないのではないかと考えていました。しかし、Twitter発祥の地であるアメリカのウェブサイトを覗いてみると、どの企業でもTwitterとFacebookの両方を導入・活用しており、日本とは比べものにならないほどウェブサイトそのものが進んでいました。
Facebookというのは、オンラインとオフラインの間に位置していると思います。オンラインのいいところ、オフラインのいいところを併せ持っている。FacebookにもTwitter機能が入っていますが、Twitterの拡散力はものすごく早く、対してFacebookはスローです。また、Facebookの方は滞在時間が長い。ビジネスで活用する場合、この辺りを考慮して、2つの役割を上手く機能させて使うことが大切です。
日本におけるFacebook
海外、特にアメリカでは、自分の発言に責任を持つことが大切だと教えられ、新聞に署名記事を持つと高く評価されますが、日本においてはその実名性が未だネックになっていると思います。私もFacebookを始めた頃、実名登録することをいろいろな意味でとてもドライに感じ、日本の風土には合わないのではないかと思い、本を書きながらも今ほど広がるとは想像していませんでした。
しかし、震災後に利用者が一気に増え、現在300万人余りが利用しています。私の実感では特に年配の方が増えており、ネットユーザーの中心が20代、30代だったのが、どんどん幅が広くなってきています。おそらく社会とのつながりを求めているのでしょう。最近では、大学でもフェイスブックページ導入の動きが出てきていますが、入学してから自分の個性に合わなかったという、学校と学生のミスマッチをなくすためにも有効な手段だと思います。企業の場合もそうですが、フェイスブックページというのは、どのようなコンテンツを誰に向けて出していくかがポイントになり、何より運営が一番大事です。現状の流れから考えると、今後Facebookは中学生・高校生にも広がっていき、大学がフェイスブックページを運営するのは当たり前になるかもしれません。
コンテンツの面白さが重要
Facebookをマーケティングや、消費者動向の分析に使いたいと考える企業もあるようですが、Facebookはコミュニケーションツールです。これまでのインターネットメディアというのは、どちらかというと発信型で情報が一方通行でしたが、Facebookは双方向のコミュニケーションツールです。
アメリカに比べて相当な遅れをとっていた日本でも、ここ数年めざましい早さで広がっています。ここで注意したいのは、今後も続いていくかということ。企業と消費者が直接つながるというコミュニケーションの取り方は、双方とも経験したことがなく、正直どうしたらいいのかわからない状況です。何かコンテンツをというと、企業からはニュースリリースのような面白味のないものしか出てこない。
しかし、それでは消費者の反応はまったく望めません。ソーシャルメディアにおいては、面白いもの、仲間とシェアしたいと思うものはものすごい勢いで広がります。反対につまらないものは無いに等しい。YouTubeにアップされた映像もあっという間に広がります。YouTubeは画質の良さよりも、短い時間で手軽に楽しめるのが良いのでしょう。時間とお金をかけなくても、アイデアさえあれば素人映像でも構わない。YouTubeもFacebookもコンテンツの面白さとリアルタイムの情報かどうかが重要なのです。
誰も思いつかなかった”ソーシャルプラグイン”
実はFacebookはとても狭い世界です。ニュースフィードに載っているのは友達の情報だけで、自分が承認している友達の数の中でニュースソースすべてが決まってしまいます。ですから、友達のマネジメントが大事になってきます。デメリットのように思えますが、Facebookは実際に会ったことのある人とのみ友達になることを推奨しています。不特定多数の人と交流したい場合には、”Facebookページ”が用意されています。
また、Facebookには”いいね!ボタン”に代表される”ソーシャルプラグイン”という、一般のウェブサイトとFacebookを連携させるツールが複数用意されています。”ソーシャルプラグイン”によって、Facebookがインターネット全体を覆う形になっていくでしょう。Yahoo!、AOL、Googleなど、これまでインターネットの覇者となってきたウェブサービスの中でも、「インターネットを覆う」という発想を持っているのはFacebookだけです。
日本発のメディアサービス出現に期待
私は仕事人生を始めたのが遅く、40歳を過ぎてからでした。そうなると、自分の人生のタイムリミットがだいたい見えてきます。常にそのタイムリミットが頭にあり、人生が終わるとき、何か種を残したいと考えています。ソーシャルメディア研究もその一つとして続けていきますが、日本からこうした世界に通用するサービスが出てこないことに、少し寂しさを感じています。
おそらく、言葉の問題に加え、紙ナプキンに書いたアイデアが実装されるシリコンバレーなどと違い、日本ではイノベーションが起こりにくい保守的な国なのでしょう。でもこれからは、ひらめいたアイデアを形にし、世界を圧巻するような人が出てきてほしいと願っています。
フェイスブックの現場であるアメリカに何度も足を運び、どのような活用方法があるかを常に研究する姿勢に共感いたしました。今後、ソーシャルメディアがどのように日本国内で利用されていくのか大変楽しみです。新書『Facebookを集客に使う本』の出版おめでとうございます!日本でもfacebook meという言葉が流行ることを願っております。
2011年5月 株式会社ソーシャルメディア研究所にて 編集:楠田尚美 撮影:鮎澤大輝