放送業界でのキャリアをスタートする以前、大学でアメリカンフットボールのコーチを7年間務め、現在は『ハワイ・ニュース・ナウ』の統括責任者として、ハワイ、同僚、家族のために働く、リック・ブランジアルディ氏に、マネジメントとは何か、リーダーシップとは何かについてお話いただきました。
第88回 リック・ブランジアルディ(Rick Blangiardi)
ハワイ・ニュース・ナウ 統括責任者
KGMB、KHNLの統括責任者。
大学でフットボールのコーチを7年間、そのうちの5年を自身が1973年に学士学位を取得したハワイ大学で務めた。ハワイでのテレビ局の管理職、役員のキャリアを後にし、シアトル、サンフランシスコの局の責任者を歴任。2002年ハワイに戻り、KHONKGMBの上級副社長、統括責任者に就任。KHON(2005年〜2006年)、KGMB(2006年〜2009年)、2009年にはハワイ・ニュース・ナウの統括責任者に就任。
2014年、ハワイ大学から「Distinguished Alumni(最優秀卒業生賞)」を、2015年にはボーイスカウトアメリカ連盟ハワイ協議会から「Hawaii’s Distinguished Citizen of the Year for 2015(2015年度ハワイ州名誉市民)」に選ばれるなど、指導者として多くの役割を果たしている。
独立した島
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私がニュース業界に入ったのは1977年です。当時は衛星技術はまだ登場していなかったので、島でインタビューを撮影したら、車を走らせ、丘を越え、映像を届けなければなりませんでした。
ハワイでは、1959年州に昇格する7年前の1952年、テレビ放送が始まりましたが、放送事業に関しては一つの国と言っていいほど、独自の発展を遂げてきました。1984年に入社したとき、連邦通信委員会が外国の会社に放送免許を認める基準を満たす20%の株式を、テレビ朝日グループが保有し、8人の日系アメリカ人を含む、それぞれ3%の株式を保有する現地の10人と協力していました。日本語の番組放送を望む市民の関心に応える形で、お正月など日本のさまざまな行事を紹介する番組を放送していました。
ただ、局には赤字という大きな問題があり、私は独立した放送局を設立するべきだと提案しました。最初に、局の名称をKIKUからKHNLに変更し、より地域に根ざしたものに、より独立した局へと作り変えました。1984年から1986年の2年間ハワイ体育大学とのパートナーシップを確立し、年間100のスポーツイベントの放送をした結果、局の知名度が確実に上がりました。
本土での冒険
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1986年、KHNLをシアトルのキングブロードキャスティングカンパニーに売却しました。1989年、私はキングブロードキャスティングからシアトル放送局の責任者のポストを打診されました。全米で最も由緒ある放送局の一つからの申し出を断る理由はありません。こうして、本土での13年に及ぶ冒険の旅が始まりました。
勇気の要る決断でしたが、現状に悠々と留まる選択はせずに、リスクを取ろうと思ったのです。「ずっと待ち望んできたリーダーの役目を果たすチャンスだ。今まで一度も現状に満足したことなどなかった!」と、自分自身を奮い立たせました。責任を負ったり、何が起こるか分からない不安から、新しい挑戦を拒む人もいます。しかし、挑戦することを止めたら、あとは後退するのみです。
ハワイ・ニュース・ナウ
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2002年、ハワイに戻り、2009年に地元の放送局数社が統合したとき、リーダーを務めました。最初にしたことは、放送局の名称を改めることでした。ニュースルームはさまざまなコールサインが飛び交って紛らわしいので、包括的な名称が必要でした。「ハワイ」という単語、デジタル社会に視聴者を引き付ける「ニュース」、そして「ナウ」という3つの単語で他との差別化を図りました。視聴者にリアルタイムで情報を伝えることは私たちの責務であり、チャンスでもあることから、新しい名称を『ハワイ・ニュース・ナウ』に決定しました。
9年前の統合以来、私たちの関心は旧来のテレビ局同士の競争から24/7デジタルの運用に移り変わりました。以前は何かを耳にしたら、職場で人に尋ねたり、誰かに電話をかけたり、新聞やテレビ、ラジオなどのメディアから情報を得ました。今は、どこかで何かが起きると、情報の方からやってきます。これはとてつもなく躍動的なことです。
ハワイは地理的には孤立していますが、その魅力は世界から注目を集めています。フェイスブックへの投稿は200万人が目にし、多くの人々がハワイから発信される情報に興味を持っています。先月のメインページへのアクセスの40%は島外からでした。その中にはハワイで生まれた人や、かつてハワイに住んでいた人、ハワイに家族がいる人もいますが、皆、ハワイを愛する人たちです。世界中からの反応は、私たちに責任をより自覚させ、より大きな地平を与えてくれます。ハワイの地理的限界は、何の意味もありません。
チームを作る
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ハワイ・ニュース・ナウの携帯用アプリは、マルチプラットフォームにも対応しており、人々はリアルタイムで今起きていることを観たり、速報を目撃したりします。私たちがこれまで成し遂げてきたことは全て、ハワイが初めて目にするものでした。ですから、旧来のメディアとデジタルの分野で私たちが行ってきたこと、チームをとても誇りに思っています。
このような組織を作り上げるには、チームメンバーに対する理解が欠かせません。チームの一員になるにはエゴを捨て、どんなに良いアイデアでも必ずしも承認されるとは限らないことを理解する必要があります。強力なメンバーは欲しいですが、共通の目標に向かって進むことのできる人でなければなりません。船頭はたくさんは要りませんし、ただ強いだけでは駄目なのです。チームの一員になるとはどういうことかを理解し、共通認識を持ったメンバーからなる、多様性を備えたチームでありたいのです。強烈なメンバーが自分の力を大義のために生かすことができないと、ただただうまくいきません。
強力な嵐が島を直撃したとき、チームは報道のために局に留まり、必要とあれば屋上にも上ると言ったのです。その夜は彼らを心から誇らしく思いました。メンバーの責任感のおかげで、サイレンが鳴り響く中でも警報を発信することができたのです。私たちは可能な限りの防災情報を発信し、同様の情報をデジタルでも配信しました。これが、チームと共に生きる力と責任です。
フェイクニュースとアドレナリン中毒
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私は、オフィスのスタッフたちが望んでいるような、勇敢で、リスクを恐れず、自らの決定に責任を持つ人物であることを常に心がけています。
数ヶ月前のある日、午前8時7分に北朝鮮のミサイルアラートが発令されましたが、2分後には誤報だったことが分かりました。十分な確認を取り、8時19分、最速で警報解除を伝えました。一方、決められた手順を踏むのに38分を要したハワイ州の声明発表は、8時45分でした。これは重大な事件が勃発したとき、対処しなければならない瞬間の事例の一つです。
地質現象に始まり、瞬く間に人道問題に発展し、今ではハワイ島における経済問題であるキラウエア火山の噴火に関しては、報道の仕方についての選択が迫られています。あらゆるメディアがこぞってやって来て書き立てる以前から、事の成り行きを見ていました。現在、私たちは人々の回復を報じる立場に回っています。故郷を離れなければならなかった人々、困窮している多くの人々がいる状況で、私たちの報道はより重要なものになっています。
最近フェイクニュースが氾濫し、腹立たしく思っていますが、歴史的にみても、大手メディアが報じる内容には常に先入観や偏見が含まれています。しかし、私たちの報道に嘘や偽物の情報は一切ありません。ハワイで週に41時間伝えているニュースはきちんと精査され、中には調査報道という物議をかもすものも含まれています。私たちが行った特別調査には、市民の大きな関心を集めた、FBIに起訴された前ホノルル警察署長ケアロハ氏に関するものや、カメハメハスクールで起こった生徒たちに対する性的暴行に関しての調査といった、ハワイにとって重大なものがあります。もし、この種の報道に関して、真実ではない内容を伝えたとしたら、日々、すべての時間を訴訟に費やすことになります。まさにギリギリのところで活動しているのです。
私たちはワクワクすることが大好きな人間の集まりです。明日、何が起こるかは決して誰にも分かりません。
コーチとしての日々
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真に強い人々と組織を作り上げることに、いつも大きな誇りを感じてきました。大学時代は優れたプレーヤーでしたが、いざ教える立場になると、私より大きく、早く、より高く飛ぶ、より強い選手たちを指導しなければなりませんでしたそこで学んだことは、優れた選手こそ獲得すべきだということです。私と同じようなレベルの選手ばかり集めても、その先に勝利はありません。放送の世界で働き始めてからも、「周囲に優れた人材を置くこと。部下を見ればリーダーのことが分かる」ということを信条としてきました。
数年前、リーダーシップについて多くの著作があるウォーレン・ベニスの本を読みました。その中で彼は、マネージャーとリーダーを明確に区別しています。マネージャーの資質を備えた人は、物事を常に正しい方法で行います。それは組織の中では重要なことです。リーダーの存在も不可欠ですが、リーダーに求められるのは物事を正しい方法で行うことではなく、常に正しいことを行うことです。職場で日々正しいことを実行するのは挑戦です。言い訳はできませんし、その瞬間瞬間に勇気を持ち続けなければなりません。しかし、そうして正しいこととは何かを知るのです。
2018年6月 ハワイ・ニュース・ナウにて
和訳 Queen & Co. 撮影 Better Half Naoya Oshita.