
2026年にメジャーデビュー20周年を迎えるシンガーソングライター lecca。順調にヒットを飛ばし、日本武道館公演を成功させた一方、東京都議会議員の経験も持つ彼女は、自身の苦しみや葛藤の思いを歌に込め、多くの人々の心に届けてきた。
2025年を「自分に負荷をかける1年」と位置づけるleccaが、20年の歩みを振り返りながら、音楽への向き合い方、そして今後のビジョンについても語る。
Profile
第119回 lecca(レッカ)
シンガーソングライター
2005年 1stアルバム『烈火』でインディーズデビュー。2006年 ミニアルバム『Dreamer』でメジャーデビュー。2009年の『For You』は年間チャート1位を獲得、配信総ダウンロード数80万を超える大ヒットに。同年リリースの4thアルバム『BIG POPPER』を機に初の全国ワンマンツアーを開催。2012年には日本武道館公演を成功させる。2017年から4年間、都議会議員を務めた後、2022年に音楽活動を再開。2024年2月、約7年ぶりとなるニューアルバム『LIBERTY ERA』をリリース。レゲエをベースにしながらもジャンルにとらわれない独自のスタイルで支持を集め続けている。
2025年2月にはビルボード大阪&横浜にて「lecca Billboard Live 2025」を開催。
同年5月より全6都市にて「lecca Road to 20th Anniversary Live Tour ~Dancehall side~」を開催する。
lecca(レッカ) official website - Avex
2024年2月28日 NEW ALBUM『LIBERTY ERA』リリース!
「lecca Road to 20th Anniversary Live Tour ~Dancehall side~」開催決定!
どんどんしようよ、失敗
この20年を振り返ってみると、間違いや失敗だらけでしたね。でも、それがなかったら私は今、ここにいなかった。ほかの人から見たら、「もっと頑張れたんじゃない?」とか、「もっと高みを目指せたんじゃないの」って思うかもしれません。でも、私の目線で私の人生を見てみると、ずいぶんよくやってきたなって思います。
子どもが生まれて生活は180度変わりました。子育てと仕事でいっぱいいっぱい。それでも「音楽はなんとか続けよう」と必死にやってきた。間違いや失敗ばかりだったんですけど、結果として最高の人生になっている気がします。
だから、失敗、何が悪いの?
「どんどんしようよ、失敗」って思います。
みんながみんな、毎日勝つために生きているわけじゃないですよね。
失敗して、それで成長すればいい。楽しめばいい。
他人から見て失敗だと思うことでも、本人が楽しんでやって、そこから何かを感じていたら失敗ではありません。本当に行きたくないとかやりたくないんだったら、やらなくていい。でも、やりたいのに失敗が怖くてやらないっていうのは本当にもったいないです。
たとえば、うちの娘はまだ小さいのですが、「大きくなったら、メイクさんになりたい」と言っているんですね。ある時、「将来イギリスに留学したいって言ったら、どうする?」と娘に聞かれたので、私は「いいんじゃない。行けばいいよ」って答えました。
イギリスに行ったからといってメイクさんになれるかなんてわからないし、いい結果を出せるとも限らない。でも、何かしたいことがあるのに挑戦しないで終わることのほうが怖いし、かわいそうすぎると思うのです。チャレンジして失敗しても、何かを感じ、そこから新たな展開が生まれたらベストかな。失敗を恐れてしまうと、挑戦すらしなくなる。それって、もったいないじゃないですか。挑戦することによって視野がものすごく広がって、これまで目指したことのない新しい夢も出てくるかもしれないのに。それすらシャットダウンしちゃうのは本当にもったいないと思うのです。
ライバルは「若い頃の自分」
今のライバルは「若い時の自分」です。20歳の時、25歳の時の自分が作った曲の中に、いいものがいっぱいあるんです。けれど、それに今の自分が負けるわけにはいかない。「あいつら、全員倒してやる!」くらいのつもりで超えていきたい。熱意とか感動とか、曲を作る時の情熱とか、負けちゃいけないし、負けないつもりでやっています。自分との勝負です。
曲の作り方も大きく変わりました。10代の頃は自分が聴きたい曲を作っていたんですよね。意識が変わったのは、2009年に『BIG POPPER』というアルバムを出してから。聴いてくださる方が増えて、手紙やプレゼントもたくさんいただくようになって。そこから毎年、ライブや全国ツアーを回ってたくさんのお客さんに会って。それに合わせて新しいアルバムを作るサイクルになりました。
28歳くらいから大きな会場でライブをやらせていただくようになりましたが、その頃から曲を作る際には必ずお客さんが頭の中に出てくるようになったのです。「このイントロでこうためて、こんな風にサビに入ったら、みんな一緒に歌ってくれるかな」と自然と考えるようになっていました。それに気づいた時、「ああ、私はひとりで音楽を作っていたわけじゃなくて、こうやって一緒に音楽を楽しんでくれる人たちと共に作っているんだな」と実感しました。実際には自分の家でひとりで作っているんですけれど、頭の中にはいつもみんながいます。10代の頃にはなかった感覚です。
だから私は「ライブ」を大事にしたい
私にはお世話になった恩師が2人いますが、共通して言われたのは、「自分の体から生まれる音や歌を何よりも大事にしなさい」ということです。ごまかしが効かないけれど、それが目の前の人に一番伝わるからと。
インディーズ時代のマネージャー・加藤さんからは「下手に盛り上げようとするな。お客さんの前でそれをするのはダサいし、息が上がるだけ。じゃなくて、きちんと自分の歌を歌え」と言われました。
ディレクターの柳さんからは「絶対に口パクはしちゃいけない」「原曲のキーを下げちゃいけない」という2つのことを言われました。

lecca LIVE TOUR 2024 “LIBERTY ERA”
ステージの事情や環境によって口パクや原曲のキー変更もある業界かもしれませんが、私は「それだけはやらない」と、頑なに守り続けています。柳さんが「私を育てよう」と思った決め手が、「デモ音源通りに歌う私の歌」だったことも大きいです。当時、柳さんはオーディション番組をやったり、さまざまなライブを見て回ったりしながら、新人発掘を続けていました。
当時からすでにデジタルミュージックが隆盛していたのですが、ライブで音源通りに歌う子があまりいなかったみたいで。そんな中、ふらっと立ち寄ったライブで、デモ音源通りに歌っていたのを見て、「なんだこれは!この子を育てたい!」と思ったそうです。それが私でした。
今はAI化が進んでいて、AIを使えば、自分の曲を読み込ませたり、自分の声を登録したりして、似たような曲が瞬時にできる世の中です。でも、AIには「感情」がわからない。これってAIの一番の弱みではないでしょうか。以前、ChatGPTに「悲しいって意味、わかるの?」と聞いたことがあります。そうしたら、「わかりません。私たちにはそういう感情はわからないんです。ただなんとなく想像することはできます」と返ってきました。
私は葛藤の中で考え続け、その苦しみをどう前向きに転換していくか、その過程を曲にし、歌にしてきたところがあります。それが私の唯一の強みです。AIには、私の曲の「真似」はできても、私が明日以降に作る曲は作れないはず。だから、私は今までもこれからも、感情を大切にしたいし、それを共有できる「ライブ」を何より大事にしていきたいと思っています。
音楽が「サードプレイス」
私の曲を聞いてくださる方は、私と同じように落ち込むこともたくさんあるし、傷つきやすいところもある人達が多いように思います。
いただく手紙やメッセージのなかには命にかかわることもけっこうあります。「本当に死のうと思っていたけれど、leccaさんの曲の、あの歌詞がこう言ってくれたから、死なないで生きることにしました」というメッセージをいただくことも。
私自身もいつも会話しているような気持ちでいて、「また同じようなことがあった時には、どういう言葉で支えてあげられるかな」と常に考えています。
音楽には人を元気にさせる力があると思っています。
私自身、音楽からパワーをもらっているひとりです。毎日、子育てと仕事で正直くたくたで、「もう、何もできない~!」って思いながら過ごしているし、エネルギーの火が消えかかっていることも多くて。でも、音楽を聴くと、不思議と元気が出るんですよね。仕事と家庭以外に過ごせる第3の場所「サードプレイス」を求める人が増えていますが、私の場合、音楽がサードプレイスですね。正確には、仕事とか会社というものがなくて、余暇とか楽しいこと、趣味と音楽が一緒になってひとつの「場」になっている気がするから、3番目ではないんですけれど。もう楽しくて。いろいろな新しいことを試せるし、挑戦できるし、解放されるし。楽しいことしかないんです。
今年は自分に負荷をかける1年に
人生のピークはいつかと考えたら、今が一番いいんですよね。でもできることなら、65歳とか70歳くらいにピークを持っていきたいです。詩人の谷川俊太郎さんは、若い頃に書いた詩だけではなく、人生の終盤にもものすごい言葉を遺されています。それはいろいろな経験をし、さまざまなものを見てきたからこそだと思うのです。私も曲という作品を作らせていただいているものとして、そうありたいと考えています。去年『LIBERTY ERA』というアルバムを約7年ぶりにリリースしましたが、その中には過去の自分にも負けていないと思える曲が収録できました。
けれど、私にはまだまだ「その先」があります。
去年は「自分を生かす」が目標だったので、今年は一転、自分に負荷をかける1年にしようかと思っています。たとえば、目的地にたどり着くのに、ゆるやかな道と坂道があったら坂道を選ぶ。やったことがないことは絶対にやる。どっちにしようかな? と考えた時には、あえてしんどいほうを選ぶ。2026年はメジャーデビュー20周年というひとつの大きな山を迎えます。それに向けて、今年は子育てはちょっと軽くしながら、音楽のほうに負荷をかけて鍛えていきたいと思っているのです。
実は、今回のインタビューのお話をいただいた時、「自分でいいの?」「こんなすごい人と何を話せば良いんだろう?」と少し悩みました。でも、実際にお会いして話してみると世代が同じで、見てきた景色に共通点があるからか、説明しなくても「こうだよね!」と頷き合えるような感覚で、まるで学生時代からの親友と話しているような気持ちになりました。
私は杉山さんのようなすごい人ではないですが、彼と同じように、自分のひとあがきが何かしらの爪痕を残せるはずだと思って生きているタイプです。一歩踏み出せば何かを変えられるかもしれないのに、踏み出さずにいるということができません。そして大抵、踏み出した途端に足元をすくわれて、すっ転んでいます。自分はあまり賢くないんです。
それでも人の生きる力、言葉の力、意志の力を信じることが好きです。
自分がこの世界からいなくなる時に、星の数ほどの失敗が自分の人生にあるといいなと思っています。それは挑戦を重ねたという勲章だから……。そしてその中でひとつでも、本当に誰かを幸せにできたことがあったら最高です。
シンガーソングライター lecca
弊社プロジェクトマネージャーに「leccaさんの『ちから』という曲、すごく気に入ると思うので、ぜひ聴いてみてください」と勧められました。
実際に聴いてみると、「自分が言いたいことが、そのまま曲になっている!俺の曲みたい(笑)」と強く共感。そこから他の楽曲も聴くうちに、leccaさんの考え方や「行動」「Do」「失敗を恐れずチャレンジする」というメッセージに深く共鳴し、「ぜひ直接お会いしてお話ししたい」と思うようになりました。
leccaさんの表情を見ていたら僕と似ていると感じて、試しに顔をくっつけてみたら、あらびっくり(笑)
実際にお会いしてお話をすると、想像以上にエネルギッシュで、まっすぐな方でした。そして何より、言葉に嘘がなく、一つひとつの発言に説得力がありました。20年のキャリアを通じて経験された苦しみや葛藤、挑戦の中で生まれた楽曲が、彼女自身の生き方そのものなのだと強く感じました。
「失敗を恐れずに挑戦することの大切さ」
「自分に負荷をかけ続け、成長し続けること」
このインタビューを通じて、leccaさんの音楽が多くの人に勇気を与えてきた理由が、改めてよくわかりました。そして、彼女の音楽と同じく、インタビューの言葉もまた、多くの人の背中を押す力を持っていると感じました。
取材協力 レストランひらまつ広尾
1982年に西麻布で開店した「ひらまつ亭」は1988年に広尾に移転し「レストランひらまつ」と改名。以来、伝統と革新の両方を味わえるフレンチレストランとして定評がある。総料理長・平松宏之氏は日本人オーナーシェフとして初めて、フランスのミシュランガイドで1つ星を獲得。選び抜かれた食材とワイン、洗練されたサービス、贅沢な空間が生み出す、美味しさと心地よさが融合した特別なひとときを味わうことができる。 編集長・杉山大輔のお気に入りのお店であり、記念日や誕生日などに活用している。支配人の後藤隆浩さん、いつもありがとうございます。
店名:レストランひらまつ 広尾 住所:東京都港区南麻布5-15-13電話:03-3444-3967
Eメール:rh@hrl.co.jp
ランチ:11:30〜15:30 (L.O. 14:00)
ディナー:18:00〜23:00 (L.O. 21:30)
定休日:毎週月曜日 (祝日の場合は翌日)
2025年1月 レストランひらまつ 広尾にて
取材・編集: 杉山 大輔
プロジェクトマネージャー:安藤 千穂
leccaマネージャー:川尻 彩華、市原 晴夏
スタイリスト:馳尾 潤子 メイク:高橋 彩
写真:浜屋 エリナ 文 : 柴田 恵理(『私の哲学』副編集長)