インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第115回 小泉 伸太郎

理容室の息子から、LGBTQツーリズムの第一人者へ。小泉伸太郎氏の人生は、虹のように多彩だ。「すべての行動は自分の責任」という信念を胸に、LGBTQツーリズムという未開の地に挑み続けている。 常に人生の覚悟を決めてきたという小泉氏に、その原点、そして未来へのチャレンジについてうかがいました。

Profile

115回 小泉伸太郎(こいずみ しんたろう)

株式会社アウト・ジャパン 取締役会長
SKトラベルコンサルティング株式会社 (Out Asia Travel) 代表取締役 
国際LGBTQ+旅行協会(IGLTA) アジアアンバサダー

1968年、東京都生まれ。立教大学社会学部を卒業後、都内のラグジュアリーホテルに就職。13年勤めたのちに転職し、トラベル関係の企業数社で経験を積む。2009年にSKトラベルコンサルティング株式会社を起業。LGBTQに特化したランドオペレーターとコンサルティングを開始。2015年にはLGBTQ研修などを行う株式会社アウト・ジャパンも立ち上げた。LGBTQマーケティングのプロとしての講演も多数行っている。

実家での経験:一つひとつを諦めない「覚悟」の原点

生きていくためには、自分自身がしっかりと事業を行ってお金を稼いでいくことが大事だな、と常に思っています。すごく漠然としているのですが、これによって経済は回るし、ビジネスもうまくいく。とはいっても、中長期の目標を立てるのは苦手。そこまで考えられない人間なので、明日や明後日のことをうまくやるためには、今どういう方とどういう話をしなきゃいけないか、を細かく考えています。それが結局はすべてつながっていくものだと思うのです。
このように考えるようになったのには、あるきっかけがありました。私の実家は床屋とパーマ屋でした。正直、それが嫌でたまらなかった。父は大学を出たものの、社会でうまくいかなくて床屋をはじめました。授業参観に、ほかのお父さんはスーツ姿なのに、父は毛染め液のついた白衣を着ていて……。「絶対それ以外のことをやるぞ!」と心に決め、必死に勉強しました。

しかし、ある時事業に失敗して、お金が必要になったのです。その時お金を貸してくれたのは両親の事業を引き継いだ姉夫婦でした。自分が馬鹿にしている人から借りなければいけない。稼げなかった自分が恥ずかしくって。それと同時に、自分があまりにも人のことを見下していたことにも気づいたんです。そう思ったとき、「何十億という人がいて、一人ひとりが頑張っているからこの世は成り立っている。だから、他人ならびに自分を大事にしないと。そのためには、しっかり事業をしてお金を稼がないと」と思いました。
あきらめることはすぐにできる。でも、それではまた自分自身が前に戻ってしまうだけ。でも、進んでいけば、もしかしたらもっと楽しく生きていけるかもしれない。「仕事で疲れているから」「忙しいから」「この人が嫌だから」そんなことを言っていたら始まらない。だから、一つひとつを諦めない。それが自分にとっての覚悟です。

LGBTQフレンドリーな環境づくりを

私はLGBTQに対する考えで目から鱗が落ちる体験をしました。それは、国際的旅行業団体・IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)のコンベンションに参加した時のことです。IGLTAは国際組織で、LGBTQの旅行の活性化だけでなく、LGBTQの人たちが差別や暴力にあうことなく安全に旅行できる国・都市やLGBTフレンドリーなホテルの情報を提供する役割も担っています。当時、私は前の会社を立ち上げた直後でしたが、共同経営者が突然失踪。ビジネスが全くない状態で途方に暮れていました。そんなとき、フロリダでIGLTAのコンベンションがあることを知ったのです。ここでの話を聞いたとき、衝撃が走りました。「そうか!これが私が思っていたLGBTQだったんだ」。私の考えは日本より先を行っていたんだと確信しましたね。

IGLTA Image
IGLTAは1983年創立で、約80ヶ国から旅行会社や
ホテル、航空会社などが加盟している。

また、IGLTAとの関わりが、私のビジネスにも大きな転機をもたらしてくれました。大変な時期、IGLTAを通じて知り合った方々からビジネスをいただいたんです。それは主に旅行のビジネスで、LGBTQの方々に日本に来ていただくという仕事でした。これが本当にありがたかった。今1億円もらうより、あの時もらった1万円のほうがずっと価値がある。そんな感じです。その経験から、絶対に恩返しをしたい!LGBTQの方々に日本を楽しんでもらい、日本のLGBTQフレンドリーな環境を作っていきたいという思いが強くなりました。そんなとき、IGLTAの世界総会があることを知り、大阪観光局さんとお話しをして、誘致に成功しました。2024年10月23~26日まで大阪で行われますが、これはアジア初の快挙です。

日本のLGBTQ理解の現状

日本でのLGBTQに対する理解はまだまだです。多くの企業や自治体がLGBTQに関する研修をやっていますが、ほとんどが形式的。「会社に言われたから」という感が正直ぬぐえません。たしかに、少しずつ変化の兆しが見えてはいます。2014年には、仏式の同性婚プランを作り、注目を集めたホテルもあります。また、2017年には日本の自治会観光局として初めて、京都市観光協会がIGLTAに加盟しました。その後、沖縄観光コンベンションビューロー、大阪観光局、東京観光財団、福岡観光コンベンションビューローと、主要観光地の組織が続いて加盟するなど、LGBTQツーリズムへの取り組みが進展していることはたしかです。けれど、全般的にLGBTQフレンドリーな対応への関心は高くないように思います。私は2015年にLGBTQの研修などを行う会社を立ち上げましたが、「研修を受けたい」というホテルの声も残念ながらまだまだ少なく、海外からのLGBTQの旅行者を受け入れる体制が整っているとは言えない状況です。

また、社会全体の理解も不十分と言えるでしょう。LGBTQの権利や人権について話しても、「そうなの?」で終わりってことが多いんです。だから、ビジネスの視点が重要だと私は思っています。ビジネスが絡まないと人権とくっついてこないと思うのです。「LGBTQを食い物にしている」と言う人もいますが、私は全くそうは思わなくて、「どうぞ稼いでみて」って言いたいです。それを見た若い人、LGBTQの子たちが「ゲイでもこんな仕事ができるんだ。僕もできるかもしれない」って思えるような状況にしていきたいのです。

実際、LGBTQツーリズムの経済効果は侮れません。スペインなどは、2005年に同性婚を法制化してから、LGBTQツーリズムで大きな成功を収めています。観光収入の約10%をLGBTQ旅行者が占めているのです。LGBTQの市場規模は旅行消費のみでもグローバルで2020億米ドルと言われています。これは大きなビジネスチャンスですよね。

批判を「力」に変える

LGBTQツーリズムの分野で活動していると、時には理不尽な批判を受けることもあります。「ゲイの代表みたいな顔をするな」とか、「LGBTQツーリズムなんて嘘だ」と言われることも。しかし、私はこれらの批判を力に変える方法を学びました。

自分のキャラクターに関して言われることは、冗談っぽく言い返しますが、ビジネスに影響することは、ちょっと厳しく対応します。そして、あまりにも理不尽なことを言われたら倍返ししますね(笑)

未来へのビジョン:虹色の日本を目指して

日本がLGBTQ先進国になるには、まだ時間がかかるでしょう。でも、一歩一歩進んでいくしかないんです。私たちの活動を通じて、少しずつでも変化を起こしていきたいですね。最後に、私の信念をお伝えしたいと思います。「行動はすべて自分の責任」です。苦しいことを活かすも殺すも自分次第。すべて自分が原因でそこにいる。そこから這い上がろうと思ったのも、自分がそうしようと思ったから。誰かのせいでもなく、誰からやれ!と言われたわけでもないから、誰に恨みもない。「すべて自分だよね」が私の行動の原点です。

ありがたいことに、ここまで本当にいい方たちにめぐり合っていますが、そのありがたさをありがたいと受け止めるのも自分自身。幸福って、そういうことで連鎖するものですね。これからも、LGBTQツーリズムを通じて、日本と世界をつなぎ、より理解と受容の進んだ社会を作っていきたいと思います。

素晴らしい記事を書いていただき、大変感謝しております。記事を読んでいると昔からの自分の軌跡が走馬灯のように思い出されます。サラリーマン時代が大変でなかったかと言うとそうではありません。ですが、何かと他人任せだったものが、「自分が基本」という考えに変わってきたのは、本当にお恥ずかしいながら、自身がビジネスを始めた40代はじめからでした。
LGBTQツーリズムに関しては、自身が当事者であることはさておき、ビジネス面から考えて日本に絶対必要なことだと確信していたので、必死に取り組んできました。IGLTA総会が日本で開催されることは画期的でありますが、これはまだ始まりに過ぎないと思います。この総会を機に、たくさんの方にとってのビジネスチャンスになり、LGBTQ当事者の方々が安心・安全で楽しい旅行が出来ることに繋がっていくことが大事だと思います。
これからも信念を持ち続け、楽しくかつ真剣に人生を歩んでいきたいと思います。有難うございました。

株式会社アウト・ジャパン 代表取締役 小泉 伸太郎


小泉伸太郎さんとの対話を通じて、彼の強い覚悟と情熱が非常に心に響きました。LGBTQツーリズムの第一人者として、彼がどれだけ多様性を尊重し、誰もが安心して旅を楽しめる環境づくりに尽力しているか、その姿勢に深い感銘を受けました。彼が掲げる「すべての行動は自分の責任」という信念は、私自身も強く共感する部分です。
私もニューヨークで育ち、多様性が自然と生活の一部となった中で、LGBTQの方々を含むすべての人々が平等に扱われる社会の実現に向けて活動してきました。 一般社団法人SLGBTQ+CENTERを立ち上げた背景にも、多様性を尊重し、包摂的な社会を作りたいという想いがあります。小泉さんの話を聞きながら、自分自身の経験と重ね合わせ、私たちの共通のビジョンがより鮮明になりました。
LGBTQツーリズムは、ただの観光業の一分野に留まらず、社会全体の理解を深めるための重要な鍵となると感じています。小泉さんの活動は、まさにその実現を目指すものであり、彼のリーダーシップと行動力は、多くの人に勇気を与えるでしょう。私もこれからも彼と共に、多様性を尊重し、誰もが自分らしく生きられる社会を目指して、さらなる努力を重ねていきたいと思います。

『私の哲学』編集長 杉山 大輔



IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)は、LGBTQ+に特化した旅行業界の団体で、1983年にアメリカで設立されました。現在、世界80カ国以上の旅行会社、ホテル、航空会社などが参加しており、LGBTQ+ツーリズムの推進と理解促進を目的に活動しています。毎年、IGLTAは世界各地で総会を開催しており、参加者は300〜500人にのぼります。2024年には、アジア初の開催地として大阪(2024年10月24日〜26日@Swissotel Nankai Osaka)が選ばれており、総会に加えて日本各地での視察ツアーも計画されています。この総会は、LGBTQ+に対する理解を深め、業界全体のネットワークを強化する重要な場となっています。



BELLUSTAR TOKYOは、LGBTQ+の旅行者を歓迎いたします。「贅沢とは、快適でぜいたくな生活の状態である」という定義を体現する当ホテルは、新宿の活気あふれる中心部に位置する象徴的な東急歌舞伎町タワーの39階から47階に位置しています。息をのむような東京のパノラマビューを楽しみ、モダンな贅沢さと日本の伝統文化が融合したエレガントなデザインの客室をご堪能ください。細部に至るまでこだわり抜いた空間で、静かで思い出に残る滞在をお楽しみいただけます。ベルスター東京は、ユニークな都会の体験を求める旅行者にとって、完璧な滞在先となるでしょう。
快適さと一体感を重視したLGBTQ+フレンドリーなラグジュアリーホテルの特別なサービスをご堪能ください。

2024年9月 Bellustar Hotelにて
 取材・編集: 杉山 大輔
 プロジェクトマネージャー: 安藤千穂
 文:柴田恵理(『私の哲学』副編集長
 撮影:浜屋えりな