インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第112回 レスリー・キー氏

レスリー・キー氏は、シンガポール生まれの写真家で、東京とニューヨークを拠点に世界中で活躍しています。貧しい家庭環境から出発した彼は、逆境さえも活力に変え、独自の視点でアート、ファッション、広告の美を探求しています。彼の情熱は写真を通じて社会に貢献し続ける原動力となっており、その作品は多くの人々に勇気と希望を与えています。

Profile

112回 レスリー・キー(れすりー・きー)

写真家
シンガポール生まれ。世界を舞台に活躍する写真家。東京とニューヨークを拠点にアート、ファッション、広告撮影、映像監督など多様な分野で活動している。
東日本大震災を支援するチャリティ写真集「TIFFANY supports LOVE AND HOPE」は第40回APA経済産業大臣賞を受賞。

2004年に創刊した、代表作ともいえる自費出版誌『SUPER』』は、写真とアートのマガジンシリーズであり、グローバル企業やLady Gaga,、Beyoncé、 Pharrell Williams、 松任谷由実らのアーティストとコラボレーションし、文化の新たな標となる。

「OUT IN JAPAN」プロジェクトでは、日本のLGBTコミュニティの生の声をレンズを通して描き出し、その作品は第19回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で審査委員会推薦作品に選ばれた。また、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」のコンセプトに共感し、ミュージックビデオ「恋のブギウギトレイン」を制作。国連広報センターと協力してSDGsの推進にも尽力している。

2016年からはNHKと共同で、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向け、「⇒2020 レスリー・キーがつなぐポートレートメッセージ」プロジェクトを推進。日本中の人々が夢や目標を共有してよりよい未来を目指そうと、2000名以上の公式ポートレイトの撮影とプロモーション映像の監督を務める。

一度は撮りたかった家族写真

私はシンガポールの貧しい家庭で育ちました。母はシングルマザーで、昼も夜も働きに出ていました。親代わりとなって育ててくれたのは祖母です。家計は苦しくても、家庭は愛情に満ちており、幸せでしたね。母のおかげで教育を受ける機会が与えられ、学ぶことの大切さを知ることもできました。
13歳の誕生日に、母からなにが欲しいかと聞かれたので、「カメラが欲しい」と答えました。もちろん、そのカメラが最初で最後のプレゼントになるとは思いもませんでした。カメラを買ってくれた日から4カ月後に、母はガンで他界してしまったのです。それまで一度も家族写真を撮ったことがなかったので、一度は撮りたかったのですが、その夢は叶いませんでした。

カメラを手にした私は、まずは妹をモデルにして写真を撮りはじめました。私も妹も幼い頃の写真をほとんど持っていなかったので、妹にはたくさんの思い出を残してあげたかったのです。そこから始まって、少しずつ友だちや身近な人を撮るようになると、人々の笑顔を通して喜びを共有することの素晴らしさを知るようになりました。
一方で、母が亡くなったために家計を支えるために働かざるを得なくなり、叔母と共にシンガポールの日系工場で働き始めました。長時間労働をこなす毎日でした。けれど、仕事の中で日本文化に触れ、その完璧主義と仕事に対する情熱に深く感銘を受けました。そして15歳のときユーミン(松任谷由実)の曲に出会い、その世界観に衝撃を受け20歳で日本行きを決意。日本の専門学校で本格的に写真を学びました。
卒業後の1年間はスタジオアシスタントになろうと面接を受け続けましたが、どこへ行っても断られる毎日で、アルバイト生活を続けながら、ファッション誌の編集部に作品を売り込みに行っていました。どんなに小さな依頼でも引き受け、全力で応え続けるうちに徐々に評価が高まり、世界的ファッション誌『VOGUE』の表紙に抜擢されるまでになりました。憧れであったユーミンのアルバムジャケットの担当が決まったときにはうれしかったですね。


Inspirations: LESLIE KEE at TEDxTokyo 2014 [日本語]

逆境こそが活力になりチャンスになる

誰かに否定されることは、私にとっては励ましです。モチベーションが上がるんです。反対意見を述べられたり機会を与えられないときこそ、私はより強くなります。

今の私たちは先進的な技術やサポートに恵まれています。
しかし、多くの人にとって、その快適さが挑戦する心を奪っているのも事実です。もし、一歩を踏み出せない人がいるなら、私は「自分が信じるものを追い続けなさい」と言います。周囲の否定的な声に負けず、自分の可能性を信じて挑戦し続けていくこと、それが成功への鍵です。多くの人が達成不可能と見なす状況においても、信念をもち続けることが大切です。私は常に逆境をチャンスと捉え、それを乗り越えることで成長してきました。

困難があれば、技術やサポートを最大限に活用して、それに立ち向かえばいいのです。何かを成し遂げるためには、意志と努力が必要です。だからこそ、意識的に自分の限界に挑戦し続ける必要があります。

被災地に届けるチャリティーフォトブック

2004年、スマトラ島で大地震が発生した際、私はニューヨークに住んでおり、その惨状をテレビで知りました。この悲劇に対して自分ができることはなんだ。それは、まぎれもなく写真を通じて人々をつなぎ、ポジティブな影響を与えることだろう。私は、すぐに行動を起こしました。12カ国を訪れて300人のアジアのアーティストを撮影し、『super stars』という写真集を発表。その収益をスマトラ島の被災者たちに寄付しました。

このチャリティブックは、私のキャリアにおいて重要な節目となり、写真を通じて社会貢献を果たすという新たな方向性が生まれました。
2011年、東日本大震災が発生すると、再び行動に駆り立てられました。地震の1週間後に東北を訪れ、被災地の状況をカメラに収めました。そして、復興支援として、過去7年間で撮ってきた32カ国200人の女性のポートレイトを集大成したチャリティ写真集『TIFFANY supports “LOVE & HOPE” by Leslie Kee』を発表しました。写真は単なる記録ではなく、再建と希望の象徴として多くの人々に勇気を与えることができると信じています。

決意と行動によって世の中は変化する

2024年4月19日から5月19日まで、「東京レインボープライド2024」に協賛する形で写真展「SUPER LVMH 〜 ART DE VIVRE」を開催しました。撮影にはモエ ヘネシー・ルイヴィトン・ジャパン(LVMHジャパン)グループのエグゼクティブ30人のほか、その社員やイベントに賛同するセレブリティ30組が協力してくれました。
それぞれ企業のシステムや価値観が異なる中で、今回の企画の趣旨を理解していただくことは容易ではありませんでした。しかし、大企業のプラットフォームを利用して、大勢の方々に多様性と包摂の重要性を伝えることができる機会ですから、努力は惜しみません。当初は消極的な企業もありましたが、最終的には皆さんから賛同を得ることができました。これは、私が誠実であり続け、透明性を持って行動し続けることで得られた成果です。拒否されても、その度に自分の行動を見直し、改善し続けることが成功への鍵だと思っています。社会全体の進歩のためには、個々の努力が不可欠です。異なる価値観を持つ企業と協力するのは容易ではありません。それは、企業だけでなく「人(個人)の価値観」も同様です。しかし、決意と行動があれば、世の中に変化をもたらすことはできるのです。

「SUPER LVMH 〜 ART DE VIVRE」は単なる写真展ではなく、私たちが社会に対して持つ信念とビジョンを世界に発信する重要なステップです。パリでの展示が成功すれば、他の都市への展開も視野に入れることができます。私たちの活動がより一層広がっていくことを期待しています。

こだわりは無限の可能性を生む

私は行動する人間であり、快適な空間に安住することを避けています。むしろ、快適さは偉大さの敵であると言えるでしょう。常に偉大さを追求し、トップクオリティの作品を提供することを目標としています。一枚の写真が千の言葉を語るように、人々の心に深く響く作品を目指し、情熱と努力を込めた作品を創り上げることで、その心に強く刻まれるのです。現状に満足することなく、新しい目標に向かって進み続けることが重要です。

この姿勢は、私の写真哲学が詰まった『SUPER』シリーズにも表れています。このシリーズは2004年に創刊され、社会に対する思いやメッセージを伝えるための写真集として、多様なテーマを取り上げています。アーティストやファッション、音楽、家族など、さまざまな側面を掘り下げ、ヌードや愛をテーマにした作品も収められています。

私は写真だけでなく、Twitter、Facebook、Instagramといったソーシャルメディアを通じてメッセージを広く発信しています。日々の生活で得たインスピレーションを活かして夢を追い続けることが大切です。そこから生まれた作品と活動は、人々に勇気と希望を与え、社会への貢献という使命を果たすことができます。

『SUPER』シリーズは、ただの写真集ではなく、深いメッセージを込めて皆さんに語りかける生きた芸術作品です。情熱と努力を持って最高を追求し続けることで、必ず偉大な成果を手に入れることができると信じています。

日本の若者に伝えたいこと

日本の多くの若者たちが目標を持たない理由は、安全で快適な国に住んでいるからです。

しかし、ソーシャルメディアを通じて世界の情報にアクセスし、日本がどれほど政治面でも文化面でも遅れているかを認識してください。世界がどのように動いているかを知り、自分自身の立ち位置を確認することで、より広い視野を持つことができます。世界に目を向け、自分自身を磨き続けてください。日本という安全で快適な環境に甘んじることなく、自分自身の可能性を信じて挑戦し続けてください。若者は無限の可能性を持っているのです。
最後に、私の哲学をお話しましょう。
挑戦すること、誠実であること、そして自己向上に努めること。それが私の哲学です。
私の作品は、情熱と努力の賜物です。
皆さんも自分の可能性を信じ、積極的に挑戦し続けることの重要性を学んでください。
自分の信念を貫き、挑戦し続けることで、成功を掴むことができるのです。
困難な状況に直面しても、誠実さと忍耐力を持って取り組むことで、必ず道は開けます。
情熱と努力で、自分の目標に向かって進んでください。
あなたの未来は、あなたの手にかかっています。

ダイスケとの出会いは、僕にとって新たな友人を得たことを意味します。彼のチャレンジ精神と信念に心から感銘を受け、今後も彼の挑戦を応援していきたいと強く感じています。特にLGBTコミュニティへの深い理解と敬意、そして多様性とインクルージョン(Diversity and Inclusion)に対する彼の真摯な姿勢は、他の誰よりも日本で際立っています。ダイスケは、異なる文化や背景を尊重し、すべての人が自分らしく輝ける社会の実現を目指している素晴らしい人物です。彼のビジョンと行動力が、多くの人々にポジティブな影響を与え続けることを確信しています。ダイスケのような未来を共に切り拓く友がいることを心から誇りに思い、私自身も彼の価値観を共有し、共に前進していきたいと思います。

写真家 レスリー・キー



ILIグローバル・クリエイティブ事業部が制作を手がけた写真展「SUPER LVMH~ART DE VIVRE」レセプションの動画

今回のインタビューを通じて、レスリーの人生哲学と写真に対する情熱を深く知ることができました。彼の人生は、シンガポールでの厳しい幼少期から始まり、数々の逆境を乗り越えながら、世界的な写真家として成長してきました。キー氏は常に逆境をチャンスと捉え、多様な文化や価値観を作品に反映しています。特に彼の『SUPER』シリーズや被災地への支援活動は、人々に希望と勇気を与え、社会貢献の使命を体現しています。

そんな彼の哲学と活動が詰まった「SUPER LVMH~ART DE VIVRE」写真展が、渋谷Creative Space Academia21で開催されていました。この写真展は、日本のプライドパレード30周年を祝し、LVMHジャパン代表のノルベール・ルレ氏や東京レインボープライドの理念に共感する世界各国のセレブリティ30組を特別に撮り下ろしたポートレートとメッセージで構成されています。
また、そのレセプションの様子を映像で記録したのは、私が代表を務める株式会社ILIです。ILIは、誰もが自信を持って「好きなものは好き」と言える包括的な社会の実現を目指しています。これまでに、アメリカ大使館、バーガーキングジャパン、アップルジャパン、マイクロソフトジャパンなど、数多くのグローバル企業の案件を手がけてきました。日英のコンテンツ制作を通じ、多様性を受け入れ、つながりと相互理解を深める活動を推進しています。
私、杉山大輔が編集長を務めるインタビューシリーズ『私の哲学』では、TEDxTokyoでゲイであることをカミングアウトした柳沢正和氏を10年以上前に取材し、大きな反響を呼びました。現在、LGBTQの認知が進む中、ILIは日英の両言語で真の平等と多様性を形にする、唯一無二の組織として活動しています。この活動は、社会における平等と多様性の実現に寄与しています。

今後も、レスリー・キー氏のように多くの人々にインスピレーションを与える人物の活動に注目し続けたいと思います。

『私の哲学』編集長 杉山 大輔

渋谷Creative Space Academia21にて 取材・編集:杉山大輔プロジェクトママネージャー:安藤千穂 撮影:Yuta Saito